探しものの旅

約半年後の9月1日にヨークシンシティーでまた会うことを約束し、わたし達五人はそれぞれの道に進んだ。

わたしはクラピカについて行く。

本当は一生ついていきたいくらいだけど、急にそんなことを言ったらクラピカも困るだろうからそれは言わない。
でも、一緒にいるうちになくてはならない存在≠ノなれたらいいなとは思う。
それがわたしの目標。




列車に揺られて次の滞在先となる都市を目指す。

メールを開くと、アドレスを交換したばかりのキルアとレオリオから連絡が来ていた。
ゴンとキルアは天空闘技場を目指すらしい。

ケータイを閉じながらわたしは話す。

「滞在先はどうする? その斡旋所ってハンター試験みたいに住所不明なんだよね?」

「そうだな、とりあえず近場で三日くらいホテルに泊まりながら手掛かりを探してみて、簡単に見つからないようなら長期で滞在する場所を決めてはどうだろうか」

「じゃあ適当にホテルの予約しちゃうね? 何かこだわりとかはある?」

「ああ、頼む。設備は特にこだわらない」

クラピカのOKをもらってホテルを探す。
せっかくライセンスを使えば無料で宿泊できるので、条件の良いところをいろいろ見てから決めたい。

「そういえば……ライセンス目当ての泥棒とかって早速くるのかな?」

「どうだろうな。まだ今期の試験が終わったことが発表されたばかりだから、新人目当てで探し当てられるとしたらもう少し先ではないか?」

念のためセキュリティーのしっかりしたところにしよう。

わたしはサービスの良いホテルのスイートを予約した。
久しぶりにキレイで広々とした場所でゆっくり過ごしたい。
どうせなら大きいお風呂に入りたかった。

二人組だと部屋も取りやすくていい。
もしかしたらカップルに間違われるかもしれない。
ちょっと嬉しい。








ひとまずホテルにチェックインしたわたし達だったが、ここで問題が起きた。
クラピカが同室は嫌だと言い出したのだ。


「今さらじゃない? ゼブロさんのところで1か月も一緒に暮らしてたじゃない」

「部屋は別々だっただろう?!」

「さんざん野宿だってしたことあるよ?」

「あれは試験で仕方なく……!」

「んもー、なんなのクラピカ。そんなにわたしと夫婦に間違われたことが嫌だったの? 仕方ないでしょ、ここはカップルに人気の特等室なんだから」

露天風呂付きの和風ホテル。そこがわたしが予約したところだった。
美味しい食事と風呂上がりのマッサージ付きで、自然に取り囲まれた個室風呂を楽しめる。
やはり狭いシャワー室の湯船より大きいお風呂に入りたかった。集合風呂ではなくて。

「そういうことを言っているのではない。私は未婚の男女が同室は良くないと言っているのだ!」

「なんで良くないの? クラピカなら大丈夫でしょ?」

むしろ良くないことが起きてもクラピカとならわたしは問題ないとすら思っている。
でもクラピカはそうじゃないのだろう。

「安心して。わたし、クラピカを襲ったりしないから」

「普通、心配するなら逆だろう?!」

「でもわたし強いから……」

「そういう問題ではないのだが……」

「別々の部屋じゃ、相談事もできないじゃない。クラピカとお喋りできないなんて、わたし嫌だよ? 二部屋を取ってても、どうせ同じ部屋に集まって過ごしたと思うけど……そんなの取るだけ無駄だし、ホテル側にも悪いじゃない」

「……私が非常識なのか?」

クラピカが疲れたように腰を下ろす。

「それよりもフロントでもらった地図を見ようよ。どこから探しに行く? どうせなら観光もしていかない?」

わたしはワクワクとしながらテーブルにパンフレットを広げた。










sideクラピカ



信用されているのか、男として見られていないのか……答えは後者だと分かっている。
分かっていたことなのに、改めて言われるとキツかった。

クラピカなら大丈夫でしょ?

その言葉に返事をすることは出来なかった。

大丈夫じゃなかったらどうするつもりなのだろうか……



地図を広げて捜索範囲の候補をあげる。
まずは北側の繁華街から攻めていくことにする。そうすれば、ナナミの希望する観光も同時にできるだろう。

ずっと一人で行動してきたのに、誰かに合わせて予定を組むことに対する不快感はない。面倒だとも思わなかった。むしろ少し楽しみにしている自分がいる。

(これでは娯楽旅行と変わらないな……)

ナナミといると、穏やかな時間が流れる。
それでいて会話に花が咲き、彼女の思考に触れるのが楽しい時もある。
何かについて議論することも多かった。

(相性は悪くないのだと思うのだが……)

だからこそ、ナナミもついてきてくれたのだと思う。

けれどもそれは家族として。親愛なのだろう。
親しいことには変わりないが、残念に思う自分を消せない。




出掛ける準備を整え、軽装に着替えたナナミは可愛らしいかった。

最初は美人だと思っていた彼女が、この頃はひたすら可愛らしくオレの目に映る。
あんなに力が強いのに、ちっとも安心できない。そばに居ないと気になって仕方がない。
周囲にいる男の視線を浴びているのを見ると、不快感が湧く。ナンパな輩には殺意を覚える。

彼女の可愛らしい姿は自分だけが見ていたいし、自分にだけ笑いかけて欲しかった。

(重症だな……)



共にいる時間が長くなればなるほど心が傾いていく。

オレはナナミに恋をしていた。
一方通行の報われない恋だが、きっとその方がいい。

ナナミには安全な場所で幸せになって欲しかった。
オレではきっと叶えられない。












助言の神様に祈って加護を受けてから、わたし達はホテルをあとにした。

あちこちお店を見て回ったり、少々の買い物をしたり。
聞き込みをしたりネットで噂話を拾ったり、怪しい人を尾行してみたり……なんだかんだで寂れたエリアに辿り着くと、目的の斡旋所と同じ名前の看板を見かける。

試しに入ってみると当たりのようで、わたし達は早々にライセンスを提示して雇い主を求めた。





「ダメね。あんた達を紹介することはできない」

「どういうことだ? ライセンスは持っていると言っているだろう」

「あんた達はまだ試験を終えてない。見れば分かる」

「わたし達の試験がまだ終わってない?」

「そうねぇ〜、ギリギリお嬢ちゃんだけなら紹介出来なくもないけど……二人一緒となると無理だわ。雇い先がないから言ってんじゃないわよ? ヒヨッコでもいいって言う顧客はいるし」



自分の隣にあるものが見えるようになったらまたおいでと追い出されてしまったのだった。

わたし達は何かの資格が足りないらしかった。
見えないことと関係しているらしい。


「ナナミには何かが見えたのか?」

「全然。なのにわたしだけなら紹介できるって、どうしてなんだろう……」

「もしかしてだが、ナナミの能力と関係しているのだろうか」

「でもわたし、あの人の前で何もしてないよ?」

「それが見える≠ニいうことなのだとしたら?」

「……魔法について、調べてみよっか」

「そうだな」



今後について相談しながら帰路につく。

それが起きたのはそんな困惑から抜け出せていない時だった――




並んで歩くクラピカとわたしの間をわざと通るようにして歩いていく男がいた。
道着を着ていたその不自然な男の動きがスリのようなそれに見えると思った時、わたしは振り返って相手の腕をグッと強めに掴んでいた。

「! なんだよ、お嬢ちゃん」

「返して。いま彼から何か盗んだでしょ」

「言い掛かりはよしてくれよ……ってイタタタ。わかったわかった!」

ピッと投げ返されたのはハンターライセンス。
ライセンス目当ての泥棒だったのだ。その割には敵意がないけれど。

「おまえ随分と怪力なんだな……おかげで計画が狂っちまったぜ」


臨戦態勢を取るわたし達の前で、男は隙だらけに頭を掻いた。










イズナビと名乗ったその男は、わたし達のことを千耳会の帰りだろうと言い当てた。彼は何者なのだろうか。

わたし達は一応周囲を警戒しながらあの斡旋所に出入りしたのだ。近くに人の気配はなかった。そのはずなのに……

(やっぱり彼もプロハンターよね。目的は何なのかしら)

ハンター試験を受けたばかりで感覚がおかしくなっているが、そもそもプロのハンターとの遭遇率はかなり低い。
あちらがわたし達に目的意識を持って接触してきたのは明白だった。

「我々に何の用だ」

クラピカも警戒している。
一度はライセンスを盗まれたのだから当然だ。

「まぁそう警戒すんなって。オレは親切に忠告してやろうとしただけだ。あそこはおまえにはまだ早い。もっと経験を積んでからだな……」

「わたし達に無い能力をあなたは知っているということ?」

「嬢ちゃんだって分かっててソイツと連んでるんだろ。教えてやらないのか?」

「どういうこと?」

「……まさかと思うが、知らないのか?」

あー、そういうことか。おかしいと思ったんだよと呟いたイズナビは、面倒くさそうにまた頭を掻いた。クセなのだろうか。









ホテルに帰ってクラピカと隣り合って話し合う。
手元にはフロントから借りた共用のノートパソコンがある。

イズナビの言う話が本当なら、わたし達はネンというものを知らなければならないらしい。
それを調べているところだった。


「やはり彼もプロハンターの一人だな。ネンについては、これは……」

「プロハンターの常識かぁ……どうする? もっと詳しく調べる? お金かかるけど」

「いや。ヤツの身元が分かった以上、本人に聞いた方が早いだろう」

「そう? でも基礎知識があるほうが分かりやすいんじゃない? 明日また会うまでに少しでも勉強しておいた方が良くない?」

「わかった。では私が支払おう」

「いやいや、言い出したのはわたしなんだから。わたしが払うよ」

「では折半にしよう。私も情報に興味がある」




情報サイトに支払いを済ませて念≠ニ呼ばれる能力について詳しく知る。
言葉だけでは理解できないことも多いけれど、きちんと系統立てて確立された特殊能力のことらしい。

わたし達は寝る間も惜しんで読むことに没頭した。










翌日、指定された喫茶店で落ち合ったイズナビは昨日とは違ってジャージ姿だった。
こうして比べてみると、若者向けのスーツを着ていたレオリオは本物のおじさんとは違うなと感じる。

「単刀直入に言う。あなたは我々に念を教える気があるということで間違いないか」

「まぁ、そういうことだな〜。その顔は調べてきたな? オレが道場をやってることも知ってるんだろ」

「あなたは門下生を選ぶ傾向があると聞きましたが……わたし達は合格ですか?」

「まぁな。じゃなきゃ声かけたりしねーよ。ライセンスを奪ったのも、コイツの動きを試したかったからだしな……素質あるよおまえら」

「わたしは、もしかして念を使えてますか?」

「ああ。あんたは無意識に発を使ってる。おそらく特質系の能力だな」


昨晩、イズナビと別れる際、わたしは彼の腕を治してみせた。
骨折しかけていたと思われる腫れがみるみる消えていく様子を見ながら、彼は強化系がどうたらと思案していたのだ。

昨日調べて気付いたが、わたしが魔法だと思っていたものは、念能力の一つらしかった。
誰もが持っている生命エネルギー。その纏っているオーラと呼ばれるものを、自在に操るのが念能力者とのことだった。

念能力は奥が深い。昨日軽く調べただけでも、それが理解できた。
学ぶならちゃんとした知識のある人について習うのが良い。
師範の資格を持つ、その道のプロである彼ならば、教えてもらうのに適任だった。


「ところで、いい加減おまえらの名前を知りたいんだが?」

もう既に知っているくせにと思いつつ、わたし達は改めて自己紹介をした。

「私はクラピカという。ブラックリストハンターを目指している」

「ナナミといいます。わたしも彼とおんなじです」

その瞬間、チラリと彼がわたしを見た。
ほんの少し驚いているようだった。

クラピカについていくということは、私もブラックリストハンターになるということだ。
だから、紹介もこれでいい。



わたし達はイズナビ師匠のもと、念を習うことになった――




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