四次試験
四次試験の内容は、受験生同士でナンバープレートを奪い合う狩るものと狩られるもの≠ニのことだった。
またしても命の危険が伴う、かくれんぼ×鬼ごっこな武闘試験――
おまけに島での滞在期間は一週間という、かなり過酷な試験になりそうだった。
サバイバルのスキルも試されるのかもしれない。
わたしのターゲットは198番。お買い得な感じのナンバーだ。
残念ながら知らない番号だったけれど、とりあえず四人のうちの誰かでなくてホッとする。
仲間内で争うなんて嫌だし、3点分のプレートを集めるのも大変そうだから……ターゲットを狙うのが一番早い。
島へ移動中の船の上で、風に吹かれながら波を眺める。
ゴンとキルアは甲板の隅でこそこそと話し合っているようだ。
お互いのターゲットを見せ合っているのかもしれない。
二人は本当に相性がいいらしく、とても仲が良さそうに見える。
なんだか羨ましくなったので、わたしもレオリオとクラピカを探すことにする。
すると丁度クラピカがこちらに出てくるところだった。
「クラピカ! レオリオは?」
「彼奴なら着くまで眠ると言っていたが」
「そっか。クラピカも風に当たりにきたの?」
「いや、私はナナミを探していたのだよ」
「なんだ、わたしと同じだね! よかったらお喋りしていかない?」
クラピカは微笑んで頷いた。
今さらだけど、クラピカはかなりの美人さんである。
でも笑うととっても可愛い。
サラサラな髪といい、羨ましい限りだ。
「ナナミは何番だったのだ?」
「ターゲットのこと?」
「そうだ。よかったら教えてくれ」
もちろんクラピカに話すのに否やはない。
彼ならむやみに吹聴したりしないと信じられる。
「わたしは198番だったよ。クラピカは?」
「私は16番のトンパだった。ナナミはターゲットが誰か把握しているのか?」
「それが分からないんだよね……でも、ある程度なら候補を絞れてるから、たぶん何とかなるんじゃないかなぁと思ってる!」
わたしには魔法の力もあるしね。
高確率でターゲットに導いてもらえるんじゃないかと睨んでいる。
「そうか。まぁ、ナナミには魔法があるしな。心配いらないか……」
「うん! 大丈夫だよ」
クラピカは心配してくれていたらしい。
その気持ちが嬉しかったので、安心させるように微笑んだ。
「……その、ナナミの力を当てにしているわけでは決して無いのだが。四次試験の間、私と組まないか? やはり女性受験生は単独だと狙われやすいと思うのだ。私と共にいればそれが防げるし、夜も交代で見張りができるから安心して眠れる。それに協力し合えば互いのターゲットも捕えやすい。どうだろうか?」
「えっ、それは……なんというか、とても有り難い申し出だけど……本当にいいの? わたしサバイバルの知識はほとんど無いからあんまり役に立たないと思うけど……」
「そこは任せてくれていい。私は森育ちみたいなものだからな」
「ふふっ、そうなんだ? 頼もしいね。ありがとう」
わたしが改めて彼と同盟を組むことを表明すると、安堵したように笑ったクラピカ。
それを見て不思議な気持ちになった。
歳下の彼にここまで心配されるなんて、案外わたしは頼りないと思われているのだろうか……
ちょっとだけ疑問に思ったが、紳士なクラピカの優しさだと思うことにする。
優しく親切なのは知っていたが、心配性でもあるのかもしれない。
船を降りて少ししたところで、隠蔽の神に祈ったあと、気配を消すよう意識して隠れながら待機する。
クラピカが通り過ぎたところで、こっそりと近寄って無事合流。
すぐ後ろからくるトンパを距離をおいて尾行しながら、初日は誰かと戦闘になることなく終了した。
森育ちだと自称していた通り、クラピカは食べられる木の実や果物などに詳しかった。
捕まえた鳥を捌いていく様子も手慣れており、わたしが持参した保存食とあわせると、なかなか豪華なディナーになった。
料理の神様には祈らなかったのに、である。
トンパ達も二人組で行動しており、拠点も分かりやすかったため、離れた場所で夜はゆっくり休むことができた。
もちろん夜間の見張りはちゃんと交代制にした。
二日目の早朝、わたしはクラピカを説得し、幸運の神や狩猟の神など、多数の神様に祈って加護を得た。
そのおかげかトンパ達はレオリオを相手に行動を起こし、その際にできる隙を逆手に取って彼らを捕まえることに成功した。
早くもクラピカのターゲットのプレートと、1点分のプレートを獲得。
わたしとクラピカのチームにレオリオも加わって、三人で198番と246番を探すことになったのだった。
しばらく進んでも誰とも会わず、気配も見当たらないとなった時、待ち合わせ場所と時間を決めて、バラバラになって周辺の捜索をしようとレオリオが提案した。
するとクラピカはわたしの単独行動を渋る。
「一人になったところを狙われたらどうするのだ?」
「そうなったらわたしだって戦うよ」
「しかし、それを避けるための同盟だったと思うのだが」
「常に一緒にいるって約束したわけじゃなかったでしょ?」
結局レオリオの説得もあり、わたし達は三人バラバラに散らばってターゲットの捜索にあたった。
クラピカの意外な頑固さには驚いた。
わたしは一度くらい彼と格闘をした方がいいのかもしれない。
異様にタフなこの身体を知れば、クラピカも少しは安心するだろう。
そんなことを考えながら捜索を続けていると……どこからかヒューっという音が聞こえてきてハッとなる。
「なんだろう。近付いてきてる……」
弓矢でも落ちてくるのかもと空を見上げると、プレートらしき丸いものが飛んでくるのが見える。
思わずキャッチしてみると、驚くべきことが発覚したのだった。
「198番……え、なんで?」
幸運の神様が微笑んだ瞬間だった――
「しっかしラッキーだったなぁ? 空からプレートが降ってくるなんてよぉ」
晩御飯となる食事をしながら、レオリオがしみじみと先ほどのことを振り返る。
「うん。流石のわたしも驚いたよ……ターゲットが簡単に見つかる、とかの幸運かなぁと予想してたからさ」
「運も実力のうちと言うからな。今日の幸運はナナミの実力だ。そもそもの加護だってナナミの力だしな」
「レオリオのターゲットも早く見つかるといいね!」
「おーよ! 明日には6点をものにするぜ〜!」
そんな事を話していた二日目の夜――
しかし、翌日も翌々日も、更にその翌日になってもレオリオのターゲットは見つからない。
だんだんレオリオにも焦りが浮かび、口調はイライラとしたものになっていく。
わたしはわたしで魔法の効果がみえなくて申し訳ないような気持ちになっていた。
その晩なかなか寝付けずにいると、見張り番をしていたクラピカと視線がかち合う。
するとクラピカはゆっくりとわたしの方に来て隣に腰掛けた。
「少しいいか?」
「……うん」
「レオリオのことなら気にしなくていい。我々は最善を尽くして行動しているし、それ以上に不思議な力でナナミは誰よりもチームに貢献している」
「うーん、それはちょっと言い過ぎじゃない?」
「私は今こうして安全に眠れるのも、水や食材に困ったことが無いのも、小さな怪我一つしたことがないのも、全てナナミのおかげだと思っている。ここまでの偶然は普通では有り得ないのだよ。
最初に君の力をあてにするつもりはないと断言しておきながら、結局こうして恩恵に授かってしまったな……申し訳ないと思うのは此方のほうだ。ナナミは悪くない」
「……よく、わたしが申し訳ないなぁって思ってることに気付いたね」
「ナナミは顔に出やすいからな」
「そうかな? そんなこと初めて言われたよ」
「では、私の洞察力が鋭いのだろう」
「ふふふ、そうだね。そういうことにしとこーか」
パチパチと鳴る炎をぼんやりと眺めながら、じんわりと沁みてくるクラピカの優しさが嬉しかった。
温かいなぁと心から思う。
「クラピカ……」
「なんだ?」
「ありがとうね。慰めてくれて」
「私は事実を述べただけなのだよ」
「それでもだよ。ありがとう……大好き!」
「……あ、ああ。こちらこそ礼を言う」
火に当たって赤くなったクラピカの顔を眺めながら、おやすみなさいと呟いた。
sideクラピカ
トクトクトクと自分の鼓動が普段より早くなっているのが分かる。
おそらくナナミが言った大好き≠ニいう言葉に反応した結果だろう。
深い意味はないと思われる好き≠ニいう言葉だが、本当にそうなのだろうかと期待する自分がどこかに存在した。
(……期待?)
オレは一体なにを期待しているのだろうか。
特別な意味を持つことを期待しているのだろうか。
「バカバカしい……」
そんなことは有り得ない。
あってはならないことだった。
復讐に生きる身であるにも関わらず、特別な人を作るなど……邪魔にしかならない。
あってはならないことなのだ。
だからこの、ハッキリとしない、不確かな感情は気のせいなのだ。
(こんなふうにドキドキするのも、ナナミが仲間内で唯一の女性だからにすぎない。男なら普通の反応だ。そもそも無防備な寝顔を見せている彼女が悪いのだ……)
クラピカは意味もなく己を戒めるように言い聞かせていた――
sideクラピカ
六日目になってしまったこともあり、一度スタート地点の近くまで戻ってみることにした我々だったが、そこでゴンと遭遇したことで、ターゲットへの道が一気に拓かれることになる。
どこか気落ちした様子のゴンだったのが気になるが、相変わらず彼の身体能力もとい嗅覚は人間離れして優れていた。
薬品の匂いをたどるという警察犬のような真似を難なくこなし、レオリオのターゲットが隠れているだろう洞窟を見つけ出したのだ。
「よっしゃ、俺が行く。オメーらはそこで待ってろ」
そんなレオリオの言葉に反論し、30分経っても出てこなかったら追いかけるという条件を飲ませる。
同盟を結んでいる以上、目的のために協力するのは当然だった。
「オメーら、来るな! ヘビだ! ぐぁぁっ!」
待っているとレオリオの叫び声が聞こえ、オレとゴンとナナミは言葉に反して走って洞窟の中へと向かった。
洞窟の奥深くは円形に広くなっており、中にはポンズと、倒れたレオリオと、もう一人……おそらくポンズのターゲットと思われる男が座っていた。
「「「レオリオ!」」」
「彼が悪いのよ。私はちゃんと忠告したわ」
彼女が説明するには、ヘビ使いバーボンの仕業とのことだった。
レオリオは大量の毒ヘビに噛まれていたのだ。
「治癒の神様のご加護がレオリオにありますように!!」
一次試験の時と同じように、ナナミが魔法を使う。
瞬く間に緑色の光がレオリオを包む……が、レオリオの苦しそうな様子は変わらなかった。
「ど、どうして?! なんで効かないの!!?」
ナナミが真っ青になって叫ぶ。
「……憶測だが、怪我や病気ではないからでは? 治癒の神の管轄外なのだろう」
必要なのは自己治癒力ではなく解毒剤だろう。
おそらく彼女の魔法も万能ではないのだ。
そして最悪なことに、解毒剤を所持しているだろう男はすでに息絶えていた。
自分に触れる者への攻撃をヘビに命令したまま……
(どうする……解毒剤が二つ以上ある可能性に賭けるか?)
このままではレオリオが危うい。
一か八かで漁ってみるべきかと覚悟を決めようとしたところでゴンが毅然とした声で叫んだ。
「あるよ! 絶対ある! 大丈夫、まかせて!」
そう言うなりゴンはヘビ使いバーボンにつかみかかり、あっという間にヘビまみれになった。
「あった! クラピカ!」
ゴンがクラピカに解毒剤を投げ渡し、受け取ったクラピカが素早くレオリオに注射する。
わたしも慌ててもう一つの解毒剤をゴンの腕に注射した。
しばらくするとレオリオの呼吸は穏やかになり、ゴンも「イテテテ」などと言いながら起きあがる。可愛く言ってダメなのである。
「ゴンったら! 無茶しないでよ! やる前にせめて守護の神様にお祈りしてれば違ったのに!! バカ! おバカ!!」
「ごめん。でも絶対に大丈夫だって思ったんだ♪」
「明るく言ってもダメだからね!」
ホッとしたら涙が滲んでしまったのだ。
急転直下の出来事だったけど、とりあえず危機は脱した……あとはどうやってヘビの罠から脱出するかと、ターゲットのプレートを奪うかだ。ふむ。
「ゴンは無茶したから休んでてね。クラピカ、わたしに協力してくれる?」
「ああ、勿論だが。いったい何をするつもりだ?」
「ちょっとコッチ来て。手を繋いでくれる?」
「……こ、こうか?」
なんだかぎこちないクラピカの手をしっかりと握りしめ、わたしは多めに魔力を込めて祈る。
(夢の神よ、心地良き眠りと幸せな夢を彼らに……ただしクラピカを除いて!)
わたしは魔法に条件付きの加護を与えてもらうということを、実行した。
ゴンじゃないけれど、なぜか大丈夫なような気がしたのだ。
「眠りの神様のご加護がありますように……!」
キラキラと大量の光が溢れて洞窟が一杯になる。
やがて、岩肌の隙間からボトボトと音を立てて沢山の毒ヘビが落ちていく……どうやら睡眠術?は成功したようである。
霧のようだった白い光が収まると、立っているのはクラピカとわたしだけ。
これも成功だった。
きっと眠らせた三人は幸せな夢を見ていることだろう。
「三人を外に運ぶの、手伝ってくれる?」
「ああ、勿論だ。それにしても凄いな……こうも簡単に眠らされては、誰もナナミに敵わないのではないか?」
「ふふっ。だから心配いらないって何度も言ったでしょ? そうじゃなくても、わたしって力持ちだし、喧嘩はそこそこ強いんだよ?」
「女性がケンカで暴力を振るうのは感心しないな」
クラピカは喧嘩なんてしない大人しい女性が好みらしかった。
わたしはついつい笑ってしまう。
レオリオをクラピカが、ポンズさんとゴンをわたしが背負って洞窟内から抜け出す。
最初はクラピカが二人抱えると言い張ったけれど、力持ちを自称するわたしが譲らなかった。
それに何となく、クラピカに女性を背負わせることに抵抗があったのだ。
「へんなの……」
「何か言ったか?」
「ううん」
眠ったままのポンズさんを木陰に寝かせ、ゴンとレオリオを背負ってわたし達も別に休める場所を探す。
二人共しばらくは起きないだろうから、きっと今夜の見張りは二人きりで交代制だ。
夕飯は何にしよう。
いよいよ明日が最終日だ。
取り留めのないことを、つらつらと考えながら歩く。
隣でレオリオがむにゃむにゃと幸せそうに寝言を呟いていた。
拠点を決めて、食材を調理し、クラピカと二人で夕飯にする。
島でのサバイバル生活のおかげで、日が沈んだら寝る支度をし、日が昇ったら活動し始めるという原始的なほどの早寝早起きが定着していた。
もうそろそろ寝る時間だ。眠くなってきた。
だけど今度はわたしの見張り当番なので頑張らないといけない。こっそりと気合いを入れる。
「考えていたのだが……」
「ん?」
「ナナミのその力は、なんらかの代償を伴うものなのではないか?」
「代償?」
「これまで見てきた限り、ナナミが多量の加護を与えたあとは、顔色を悪くしているように思う。現に今も、少し疲れているのだろう? 食事が足りていないことも原因かもしれない。二次試験の夜は元気そうにしていたからな」
「それは……考えたことなかった。体力的な代償ってこと?」
「判らないが、ナナミの中の何かを損なっているのだとしたら、無闇矢鱈と多用するのは危険かもしれない……」
「確かに、魔女と言えば血液とかを使ってそうなイメージあるしね。自分の中に流れる血液みたいな、魔力って言うのかな? 使いすぎたら死ぬこともあるのかも? 干涸びて?」
「そんな軽く言わないでくれ。ことは命に関わるのだよ」
「うん……実はハンターになったら、この力について調べてみようと思ってたんだ。ハンターとしてなら、何か分かるかもしれないでしょ?」
「そうだな。そうした方がいい。不確かな力に頼りすぎるのは危険だ……いつか反動が来るのかもしれない。そうなったら困るだろう」
クラピカが心配そうにこちらをジッと見つめる。
本当に彼は心配性だ。
それでも、こんなに深く真剣に考察してくれるなんて……くすぐったいような嬉しさがあった。
翌日になって目覚めたレオリオとゴン。
スタート地点にある船の方からアナウンスが響き、ようやく長かったサバイバル試験が終わろうとしていた。
指定された時刻にゴールすると、すでにキルアが到着していて、わたし達を待っていた。
ゴンがターゲットのプレートを獲得できたことを喜びながらも驚いている。
そう。なんとゴンのターゲットはあのヒソカだったのである。
今のゴンの実力では、遭遇して戦闘になったら間違いなく勝ち目がない相手だろう。
わたしだって、魔法があっても無理だと思う。祈りを唱える前にきっとヤられてしまう……
そんな相手から自力でプレートを奪ったゴンは本当に凄いのだ。
再び飛行船に乗り、向かうのは最終試験会場である。
今度はどこへ連れてかれるのか。少しだけ楽しみだった。
とりあえずシャワーを浴びて。
食堂で空腹を満たしていると、展望デッキの方へゴンが歩いて行くのが見えた。
しばらくすると、クラピカが。
そんな光景を目に入れて、もしかしたら二人で大事な話をするのかもしれないなと思う。
ゴンはヒソカのプレートをゲットしたわりには喜び方が控えめだった。
なんというかキレが足りなかったのである。
凄い凄いと思っていたけれど。
(何かあったのかもしれないね……)
そして、それに気付いたクラピカが、また話をしに行ったのだろう。
わたしの時のように。
心配性で、優しくて、友達思いのクラピカ。
すっごく良い人なのに……幸せになって欲しいのに。
そんな彼は復讐者なのである。
やられたらやり返す。
その気持ちは分かるけど……相手はA級首の盗賊団で。
下手したらクラピカの方が死んでしまうのだ。
というか死んでもいいから敵討ちをしたいのだろう。クラピカは。
理知的で冷静なのに、そんな激情を抱え持っている……矛盾した存在。
(なんだかなぁ……)
わたしはクラピカのことを考えると、結局はこの堂々巡りに陥ってしまう。
自分がどうしたいとか、相手にどうして欲しいとか、そういったことが難しくて複雑で。
モヤモヤした気分になってしまうのだ。
(あぁ、でも、やっぱり……)
前世のことを思い出す。
そう考えると、わたしも相手を殺したくなるほど恨むかもしれなかった。
刺し違えてでも殺したくなるかもしれない――
ネテロ会長の声でアナウンスが流れて、面接が行われることを知る。
さっそくヒソカこと44番が呼ばれていたが、果たして面接とはどんなものなのだろうか。
まさか最終試験がこれということだろうか。
緊張しながら待っていると、思っていたよりずっと早くに自分の番号が呼ばれた。
こうなると最終試験ではなさそうだと思う。
(でも全く無関係ってことはないよね……)
「まぁ、かけなされ」
通された部屋は懐かしさを感じる和室風の部屋だった。
会長直々の面談に身構えていると、何故ハンターになりたいのかと問われる。
ライセンスが便利だから、とは答えにくかった。かと言って嘘もつきたくない。
「力が欲しかったからです。大切な人を守るため、自分らしく生きるため、あらゆる意味での力が必要だと思ったから、ハンターを目指すことにしました」
「ふむ……では、この9人の中で注目している人物は?」
最終試験に残った受験生の写真が並べられていく。
「えっと、この4人です。いろいろ良くしてもらっているので、合格して欲しいなと思います」
「では、この中で戦いたくない相手は?」
「命懸けの戦闘という意味なら、できれば誰とも戦いたくないです」
「ほぅ、では命懸けでなければ誰とでも戦うということかな?」
「そうですね……殺し合いで無いのなら、負けないように頑張ります」
「ふむ。では面接は以上じゃ」
「はい」
部屋を出て、展望デッキを目指しながら、あの答え方で良かったのだろうかと考える。
なかなか答えにくい質問ばかりだった。
つい深読みしてしまったが、結局は思ったことを素直に答えるしかなくて……それなのに何かとてつもない失敗をしてしまったような気分になる。
わたしは気づかないうちに溜め息をついていた。
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