『あ、桂さん!見てくださいこれっ』
彼女が差し出したのは、白くて丸い固まり。
両の手の平の中央に居心地良さそうに収まっているのは兎だろうか。
その目は赤い実、耳は深緑の葉、鼻には黒い石があてがってある…
意外と手先が器用なのか、実に上手く整えてあった。
「雪兎だね、上手く出来ている」
『ふふふ…ただの雪うさぎじゃないんですよ、このウサギは跳ねるんです!ほらっ』
ぴょんぴょん、と口で言いながら奇妙な格好で手や腕を動かしている彼女…
「……ふっ…あははは、なんだい?それは…」
『だから、うさぎですってば!ほら跳ねてるっ!…ねっ?…はい、どうぞ。この子、桂さんにあげますね、可愛いでしょう?』
何を言うかと思ったら、まったくこの娘(コ)は…
まるで子供のようだ。それだけ純真なのだろうか。
しかし一歩間違うと………いや、その先は言わないでおこう。
「気持ちは嬉しいけれど、この兎は私の側よりも君の側にずっと居たいのではないかな」
『そんなことないですっ!だって……この子はお守りなんですよ?難を転ずるお守りなんです。桂さんに、災いが降り掛かからないように…もし降り掛かっても跳ね返せるようにって…わたし、気持ちを込めて作りました…だから…南天の実と葉っぱの力に、兎の跳ねる力が加わって、効果抜群なハズです!!』
『それにきっと半分は、私の分身なんです・・・だから受け取って下さい、お守りウサギ。……お役目を果たして溶け消えるまで、側に置いてあげて下さいね?』
なる程そういうことだったのか…
神妙な面持ちから、急に明るい笑顔になった彼女の胸中は今どんなだろうか。
この雪兎に、私への心遣いが込められていることにも驚いた…
「そうか、そういうことなら遠慮なく頂戴するよ…ありがとう。君は、優しい人だね・・・」
彼女の突拍子無い妙な振る舞いと明るい笑顔の裏側に、隠されていた本音と本質…
思惑をひた隠しにするその様は、誰かを彷彿とさせる。
(ひょっとすると、この子は私と似通った部分があるのかもしれないな…
不思議なことがあるものだ…
私とは正反対だとずっと思っていたのにね)
――似てるから、好きになる… …好きだから、似てしまう――
――あなたはどっち?――
2011/02/17
庭に積もったを雪を眺めながら・・・64/64