「いざ、勝負っ!!」
『どうぞ、どこからでもご自由に』
「ずいぶんと余裕ですね。後悔してもしりませんよ?」
『沖田さんこそ、私を甘く見てると痛い目みますよ?』
――コーン…――
――カンッ…コーン…――
――…コンッ!――
にこにこと笑顔を向け合いながら…新年早々、真剣勝負をしている二人。
軽やかに走り回りながら、なんとも広範囲な守備力を見せつけていた。
ここは屯所の中庭で、小気味よい音を立てながら羽根つき勝負をする彼らを、
側で見守る隊士が数名…半ば唖然としながら、白熱してゆく勝負に見入っていた。
争う二人の一方は…駿足剣豪で知れた人物。
仲間からの信頼も厚い朗らかな青年で、紛れもなく新撰組随一の武術の持ち主だった。
それを相手に圧されていない人物は女子。
厚く着込んだ姿で何故そんなに反撃できるのか……
そもそも何故このような勝負を受けているのか……
その意味理由や行動力にしてみても、何かと謎の多い娘で、紅一点な存在だった。
何度も何度も往復し、その度に強く打ち付けられている羽の方が先に、
悲鳴を上げてしまうのではないかとさえ思えるほどに…二人の羽打つ強さは互角。
なかなか勝敗の着かぬ光景に、溜め息が小さくこぼされ始めていた。
一人、また一人と…こっそり隊士が立ち去る頃に、
新たに様子を伺う者が現れた。
「おい、あいつらは何やっている?」
「あっ、副長! 実は・・・
―――――……という訳なのです」
「っったく、総司のやつ一体なに考えてやがる……」
「他の者に聞いた話ですと、何かを賭けての勝負らしいですよ?」
「はぁ!? なんだ、そりゃあ…賭けてるモノはなんだ!」
「いえ、自分もそこまでは……」
「まぁいい、あとは俺がなんとかする。
お前は帰っていいぞ。どうせ用事があんだろ?」
「あ、ありがとうございます!!」
見守っていた最後の一人を追い払うように下がらせて……
土方歳三は、改めて庭先の二人を眺めた。
額に汗を浮かべながら、両者とも羽子から一瞬も目を離さない。
互いに相手を左右に振りながら、それでも激しく打合いが続いていた。
――総司がここまで遊びに本気になるのも珍しい……
いったい何が狙いなんだアイツは?――
――まさか……――
「おいっ!総司ぃ!!!」
「え・土方さん!?」
『隙あり…っ!』
「「!!!」」
その瞬間、長かった羽子板を駆使しての互角勝負に決着がついた。
「土方さんのせいですよ!
もう、どうしてくれるんですかっ!今までの僕の苦労が……」
「関係ねぇだろうが、俺ぁ呼んだだけだ」
『そうですよ、沖田さん。人のせいにするなんて反則です。
負けは負け…素直に認めましょうね。私の勝ちですよ』
「そんなの…納得いきません……」
『男らしくないですよ!ここは潔く…そうですよね?土方さん』
「そうだぜ総司、情けねぇこと言ってんじゃねーよ」
「………お二人とも、仲いいですね。息ぴったり…」
「『そう(です)か?』」
「…………」
きょとんと見つめる彼女の隣には、心なしかニヤついた顔の“鬼の副長”こと土方歳三。
それに何やら嫌な予感を覚えた総司は、仕方なく引き下がる事にした。
「わかりました、僕の負けです!
貴女との約束も必ず守ると誓いましょう」
『良かった…!』
「その代わりこのことは内密にお願いしますよ?」
『わかってますって♪ 楽しみにしてますねっ!』
「………で?」
「『?』」
「お前ら一体なにを賭けてたんだ?」
「『それは秘密です』」
なんだよ息が合ってるのはそっちの方じゃねーか……
そんなことを思いながら、結局そのままその場を後にした土方副長。
後日、彼の隠し財産である秘密の句帳が一時的に紛失……
何故か彼の苦手な食材が連日のように食卓に並ぶようになり……
誰も知らないハズの好みの花が部屋に生けられていたのは……
この事件とはまた別の話だったとか、なかったとか。
2011/01/02
ただただ遊びのシーンを書いてみたかった(^^;)ゞ
年明け話☆Part.2です!56/64