コウノトリ


『なかなかできませんね……子供……』


障子にもたれて庭を眺めていた君が、ぽつりと小さく呟いた――


残念そうな物言いに、ふいに不安を覚えて振り返って見ると、思い詰めて苦しんでいるというわけではないようで……心底ほっとした。
だけども生気のない表情で、ぼんやりと焦点が定まらない。まさに「心ここに有らず」といった体が私の胸を締め付ける。

そのことで彼女に責任を感じさせてしまうのは本意ではない。

仮に責任があるとしたら、その半分は私にある。

だが理不尽にも、周囲から責められるのは妻であることが多い。

親族に限らず、友人にも、使用人にも、
そのことには触れてくれるなと伝えてはいるものの、
私の目の届かぬ場所での効力はあまり期待できない……

誰ぞ口にせずとも、
態度にだして訴えかける者があるかもしれない……

守りきれてないかもしれない不安が付きまとう。

傷ついて欲しくなかった。
自分を責めるようなことはして欲しくなかった。

ちひろがいれば、私はそれで幸せだった……











「授かり物だからね……思惑通りにはいかないものだよ」

『このまま、ずーっと授からなかったら……どうしますか?』

「そうだね……いずれ養子を組むだろうね。家の存続のために、余所でも当たり前にやっていることだからね」

『でも私、できればやっぱり、小五郎さんと私の、二人の子供が欲しいです……』

「それは……私も同じだよ?」

『そうでしょうか・・・』

「おや?もしやちひろは、暗に私の努力が足りないと責めているのかな?」

『ちちち、違いますよ!わたしは、ただ……』

「ただ?」

『家のためとかそういうのじゃなくて……何ていうか……わたしがここに生きた証を残したいと思ったんです……』

『でも、やっぱり許されないことなのかもしれません。この時代の人間じゃないから、だから子供も授からない……』

『本当は、ココに居ること自体が間違ってるのかも・・・』



(小五郎さんは……歴史に名を刻むような人なのに。わたしには、残せるものが…何にもない……)












子供を欲しがっているのは分かっていたが、
その裏にこのような考えがあったとは知らなかった。

私はなにを見てきたのだろう……


ちひろは、自分のことを時代の異端児だとでも感じているのだろうか?


私が彼女を思う気持ち、彼女が私を思う気持ち……

共に過ごした日々、二人で歩んで来た道……

それだけでは、ちひろの生きた証、
生きる支えにはならないのだろうか・・・



突如これまで積み上げてきたもの全てが、傾いて崩れるような……

本当は薄っぺらなものであったかのような……

そんな錯覚に陥ってしまう。




――まさか、そんなはずはない・・・――










2010/12/13 眠気に負けて、超ブツ切り。。
2013.05.06 追記:11年の6月に書いた断編「籠もり唄〜lullaby〜」と同じテーマだけど方向性が違う感じのSS。敢えて言うなら、こっちが明治ver.で、あっちは幕末ver.かな。
そして何故か、陽だまり部屋にあったこっちがシリアスで、月明かり部屋にあった籠もり唄は、どちらかと言えば和み系な気が…
そう言えばこれの格納倉庫は初代裏サイト(密月夜に恋して…)でしたね。だからやや暗めのテーマなのか〜!懐かしいなぁ(笑)


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