ひだまり


『いいお天気だなぁ…』

わたしは洗濯物を取り込みたたんだ後、そのまま縁側で日向ぼっこをしていた。
小春日和というのがいかにも相応しい日の午後……

ぽかぽか陽気がとにかく気持ちよくて、なんだか眠たくなってくる。


――あ。お日様の匂いがする――


積み重ねた洗濯物の山に少しだけ顔を埋めていると、
そのまま目を閉じてしまいそうだった。

ダメダメと自分に言い聞かせると、チョットだけ……と囁くもう一人の自分。

誘惑に負けては瞼を下ろし、叱りの声に目を開ける。

葛藤のまばたきを繰り返している内に、だんだんと視界はぼやけていった……


小鳥のさえずり、風の音、人の気配。
囁くように響く音や香りを感じながら……吸い込まれてゆくのは夢の国。

その国だけは、いつの時代も変わらない……

誰にでも平等で、時に穏やかに、時に忙しなく、
様々な思い出や、忘れていた出来事、あるいは近未来に、出逢える世界。







――あの子は……いったい何をやっているんだ?――

少し身体を動かそうと思い、庭に出ると不可思議な光景に目を見張った…

洗濯物に顔を埋めるようにして背中を丸めて、
見るからに今にも倒れそうなのに、何故か上手く平衡を保っている彼女……
それを寝ながら成し得ているというのだから驚きだ。

――これを不可思議な光景と言わずに何と言えようか――

フツフツと温もりの泡が内に込み上げてきて、ふっと笑い声をこぼしてしまった。

――おかしな子だ……微笑ましくて、まるで子供のようなのに――

なのに時折ものすごい行動力を示し、自ら危険な役を引き受ける。
剣の腕前といい大胆さや潔さ……男に勝るとも劣らない。


――だが、もっと自分を大事にしてくれ――

心の中でそう呟きながら、僕は彼女の隣に腰掛けた。


絶妙とも呼べるこの状況を、敢えて崩すのは忍びないが……
このまま放って置くわけにもいかないわけで、二三呼びかけた。

しかし一向に目を覚ます気配がない。

その様子に小さく溜め息をついて……
今度は肩を掴んで少し揺らしてみることにした。


『……んぅ…』


小さく漏れた声に、ようやく反応があったなとホッしていると……

彼女がとんでもない反応を示した。







夢の中でわたしは懐かしい人々に会っていた。

厳しくて優しかった両親、仲良しのカナちゃんと、部活の仲間、クラスメート、先生やコーチ。

ここに来てからまだ半月と経ってないハズなのに、
もう何ヶ月も会ってないかのような懐かしさに襲われる……


――わたし、どうして・・・?――


帰りたいとずっと思っていた場所と、そこに住む人々。
きっとわたしを温かく迎えてくれる……
それを思うと胸がキュッと締めつけてきて苦しくなる。


――ごめんなさい――


わたしはもう、帰れないかもしれない。

ううん……帰らないかもしれない。


ここでのわたしの世界は狭いけど、
その分だけ強く、大切にしたいと思える人達ができた。

彼らは今ここにいて、この時代を懸命に生きている。
そしてわたしも今、ここに居る……


――帰れなくてもいい――

確かにそう思ったこともある。
だから余計に懐かしく感じたのかな?


平和な現代で、面白楽しく安穏と暮らすより、
今の、常に危険と隣り合わせな時代と場所で生きてみたいと思うなんて…
どうかしてる気もするけど、そうさせる何かがあるのだ。

だから、それを確かめたい……


――お父さん、お母さん……
今まで本当にありがとう。親不幸者で、ごめんなさい――

思わず心に叫ぶと、少しだけ淋しい表情を見せたものの
笑顔で頷いてくれた二人に、わたしは思いっきり抱きついた……







――何故こんなことに…っ――


僕は今、首にしがみついて離れない彼女に困惑していた。

寝ぼけているのは明らかだったが、
もたれかかってくるその姿に満更悪い気もしなくて……
とりあえず為すがままにしている。

だが、いつ誰が通るかも知れないこの場所……
露呈を恐れる訳ではないが、誤解を生んでしまってはこの子に申し訳ない。

そう思って引き離そうと手を掛けた時、彼女が小さく呟いた……


『お父さん……』



――なっ!??――


言いようのない衝撃を受けた。


――お父さん?…君は、僕を父と間違え抱きついているのか!?――


複雑だった。混乱した。
怒るべきなのか嘆くべきなのか、嬉しいのか悔しいのか……


そんなに僕は父親のような振る舞いをしていたのか?

以前、叱ってくれて嬉しいと言われたことがあったが……
もしかするとそれは、父親のようで嬉しいという意味だったのか?


何とも言えない気分を持て余していると、ふと彼女の頬を伝ってゆく雫に気がついた。


「……………」


その瞬間……
混沌としたものが消え失せ、安穏に変わった。


――今はまだ……それでいい――


君が望むというのなら、
いくらでも代わりを務めよう……

いくらでもこの胸を貸してやる……

そう思った。










2010/12/02
サイト開設1ケ月記念☆ひだまりPart.2


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