ひだまり


『あー…いい天気〜』

私は縁側で洗濯物をたたみながら微睡んでいた。
小春日和というのがいかにも相応しい日の午後…

気持ちよくて気持ちよくて、ついつい手の動きが鈍くなる。


――ね、眠いわ・・・――


いけないと思いつつも少しの間だけ、瞼を閉じて目を休ませた。
眩しい光が和らいで、耳が余計に敏感になる。

雀の声、風の音、遠くに感じる隊士の気配……
木刀の打ち合う響きの中に、誰かが誰かを罵倒する声がある。

――喧嘩でもしてるのかしら…――

そんなことは日常茶飯事な場所だということが分かってからは、気にしないようにしている。

――触らぬ神に祟りなし…巻き込まれるのはもう御免だしね――


以前、隊士間のいざこざに首を突っ込んで面倒なことになった…
話を聞いている内に何故か私に矛先が向いてしまって…正直ワケが分からなかった。


――そういえば、あの時は沖田さんが助けてくれたんだっけ――


混乱を極めた私の隣に急に現れて、
黒いオーラが漂うような、
凄みのある笑顔で隊士を一蹴してしまったのだ。あれには流石に驚いた…

――でも、助けてくれたけど怒ってたんだよね…あの後の沖田さん――


普段は明るく剽軽で取っつき易くて、
甘味の事で少し周りを振り回す、子供好きなお兄さんなのに…

隊務に就く姿は真剣で力強くて、
でも神秘的な何かがあって、怖いくらいに冷徹な目をする…


よく判らない切ない気持ちを抱きながら…私の意識は唐突に途絶えた。

自分でも気付かない内に、
陽の光以外に何も無い穏やかな空間に滑り落ちていた。







遠くに見える彼女は、縁側で洗濯物をたたみながら考え事をしているようだった。

巡回の報告を終えたあと、まだ彼女は居るだろうかと思い中庭に寄ると、
先程と変わらず縁側に座っていた。

近寄りながらも観察していると、
手に持つ布地は先程と同じで、尚且つ周りに積まれている物の嵩に変化がないのが見て取れた…


――もしや?――

目の前までやってきて確信した……


――寝ている――


彼女にしては珍しい…
よほど疲れているのだろうかと思った。

それが淋しいような心苦しさを感じさせる。


――貴女は何でも一人で抱え過ぎなんですよ――

もう少し周りを頼ったり、
手抜きをしても誰も咎めないというのに…
朝から晩まで働き詰めな彼女。

どうしてそうも必死なのか……

その理由は、頭では分かっているのだが…
どうにも心が許さない。
受け入れない。


――座ったままでは休めないでしょうに――

僕は彼女の隣に腰かけて、その身体をゆっくりと横たえさせた。


頭を膝上に支えながら、
羽織を脱いで掛けてやると、
僅かに微笑んだように見えた。

普段は感じさせない幼さの残る表情に、
愛しさと切なさを感じながら……
僕は彼女に見入っていた。

――こんな時代のこんな場所で、こんな事をさせていて…
 本当にいいのだろうか――







浅くて広い光の中を、私は泳ぐでもなく漂っていた…

プカプカと浮かぶ安らぎの中に突然できた一点の小さな黒い穴。
そこから強い光が差し込んできて、
私は眩しくて堪らないのに目を瞑ることができなかった。

遠くにあるのは判っているのに、

手を伸ばせば届きそうで…

やけに重い腕を持ち上げて
私はゆっくりと光を掴み取った…







急に手を差し出すものだから、
僕は思わず握り締めてしまった。


――起きたかな?――


瞼を震わせている彼女を見下ろしていると、自分の髪が少し掛かってしまった。
近付き過ぎていたことにハッとして距離を置こうとしたとき…


『やっぱり沖田さんだったんですね…』


ふっと微笑んだ彼女の妖しげな儚さに、
僕は一瞬時が止まったように感じた。

何だか急に見ているのが恥ずかしくなって
目を逸らしていると…


『眩しいくせに黒いから…スグ分かりましたよ』


――はい?――


どうしてか一人納得して満足そうな彼女は、この状況に一言も突っ込みをいれることなく起き上がり、
何事もなかったようにサラリと手を離して、肩に掛かった羽織を僕に差し出す…

そして唖然としている間にも洗濯物を巧いことまとめ上げ、全て抱えて立ち去ってしまった。

『では失礼します』とだけ言い残して……


――僕は一体どうすれば?――
幼さの残る彼女なのに、
手のひらで転がされている気がするのは、気のせいだろうか……

いや、気のせいであって欲しいと思った。


――次は負けませんから…!――


恋愛は勝負じゃないと言ったけど、違うかもしれませんね。










2010/12/01
サイト開設1ケ月記念☆ひだまりPart.3

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