『いい天気…』
私は縁側で日向ぼっこをしていた。
小春日和というのがいかにも相応しい日の午後…
気持ちよくて気持ちよくて、ついつい目を閉じてしまいそうになる。
――ちょっとだけ――
ほんの少しの間だけ、瞼をおろして目を休ませた。
眩しい光が和らいで、耳がいくらか敏感になる。
小鳥のさえずり、風の音、人の気配。
心を穏やかにこの時代の様々を感じ取っていた…
――目を閉じれば平成と変わらない…平穏な空気なのに――
この時代に居る不思議を改めて感じたりして、少し懐かしくなった。
――みんな元気にしてるかな?――
私がここにいること、ここに残ると決めたこと…
もう二度と会えない人達に、心配してくれているであろう人達に、
遠く離れた場所で元気にしてるということを伝えられたら……
――ここで知り合った大切な人達と一緒に私、ちゃんと生きてるよ――
少しの切ない気持ちを抱きながら…私の意識は途絶えた。
自分でも気付かない内に、何も無い空間を潜り抜け…夢の世界へ落ちていた。
*
遠くに見える彼女は、縁側に腰掛け瞑想しているようだった。
少なくとも先刻までは…
所用を終えて部屋に戻る途中で、まだ彼女は居るのだろうかと覗いたら、
先程と変わらず縁側に座っている。
やや俯いたその後ろ姿を不思議に思って考えを巡らせれば、
不安と淋しさが込み上げてくる……
故郷でも思い出しているのだろうかと思った…
それが淋しいような心苦しさを感じさせる。
――きっと私には全てを理解してやれないだろう――
ならば、今はそっとしておいてやるのが良い……
そう考える頭を他所に、身体は自然と彼女に歩み寄っていた。
戸惑いが交錯する中、背後に迫り、改めて彼女を見下ろす。
何を話しかけるか悩みながら隣に膝をつくと…
驚いたことに彼女は眠っていた……どうりで不自然なわけだ。
――器用な人ですね――
感心して眺めていると、あどけない表情に愛しさが込み上げる。
――このままでは風邪をひいてしまいますよ――
私は日暮れの近い空を確かめると、座ったまま彼女を抱きかかえて部屋に運んだ。
*
何もない世界に私は浮いていた。
温かくて、優しくて、とても静かで、安心する世界。
そんな中に自分の心音だけが響く。
「トクン、トクン、トクン……」
『ドクン、ドクン、ドクン……』
一定のリズムを刻んでいたのが急に力強くなった。
と同時に良い香りがする。
――いい匂い――
私は目に見えない匂いを掴む思いで、自分の身体を抱き締めた。
まとわりつく香源を離さないために……
*
――はてさて、この状況はどうしたものか…――
私の膝上にはしがみついて離れない彼女の寝姿。
いかにも心地良さそうにしているのを妨げるのは忍びない…
だからといって何時までもこうしている訳にはいかぬのだが、
自然に手が伸びて髪を撫で付けてしまう……
そうすることで私まで安らげるのだから不思議だ。
――もう暫くはこのままで――
このまま、日が沈むまでは独占させてもらいますね?
目を覚ましたら、小言の一つ二つは言ってやらねばなるまい。
風邪を引いたらどうするのか… 無防備にも程が有る…
通りかかったのが私でなかったなら、
運んだのが私でなかったらどうなっていたことか…
とても二つに収まらない小言を心に列挙しながらも、
今はただひたすらに優しく穏やかな表情で、髪を撫で続ける小五郎だった。
2010/12/01
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