―――とある日の夕方――――
目の前で横を向いて座っている男の人に、
私は先ほどから抗議と嘆願のセリフを浴びせていた。
『…だから、お願いします』
「…………」
『ちょっとだけ!ほんのチョットでいいんです…!』
「…………」
『ねぇ、聞いてますかッ!?いい加減、返事くらいして下さいよ、大久保さぁん!』
「……駄目だ」
『…昨日までは良かったのに、なんで今になって急に駄目なんて言うんですか?』
「駄目なものは駄目だからだ。小娘には関係のない、大人の事情だ」
『嘘ばっっかり……』
「なにを!?」
始めから私に見向きもせずに、黙秘ばかりだった大久保さんが
ようやく顔をこちらに向けて、私を睨むように見る。
『私っ、知ってるんですから!』
「ふんっ!小娘が…何を知っているというのだ。言ってみろ」
『…大久保さんの、秘密です……』
「はっ…一体なんのことだ」
『大久保さんって…
自分勝手な嘘を付く時は、必ず、
ある癖が出るんですよ……
知ってました?』
私はニヤリと笑いかけながら、机に向かっている大久保さんに
肘を付いてジワジワにじり寄りながら言い放つ。
『大久保さんは嘘をついています。
それも、後ろめたさを感じるような…
とても身勝手な ウ・ソ・を』
珍しく戸惑いの表情を浮かべる彼に、私は心の中でガッツポーズをした。
本当はこの人にそんな癖なんかない。
たまに何となく判るだけで…
今回はたまたま自信があったから鎌をかけた。
だから、理由までは分からない。
この人は何で私を縁日に行かせたくないの?
しかも今朝になって急に。
せっかく手の空いた半次郎さんが護衛に付いてきてくれることになって、
一人で行くよりずっと安全だっていうのに。
そういえば……!
今朝、半次郎さんが付いてきてくれることになったって報告した時、
微妙に不機嫌オーラを出してたけど…
もしかして、それが理由・・・?
――解決への糸口を掴んだ彼女は、
男を降伏させるべく仕掛けを発動させる―――
『ずっと、楽しみにしてたんですよ…?
それに、わたし…本当は一緒に行きたいです
利通さんと…』
――熱っぽくそう言って彼を見上げる彼女は、
瞳を潤ませ、目元には大粒に輝く水晶を蓄えていた―――
(まだどうしても、ダメだと貴方は言いますか?)
2010/11/21
女の武器は手強いのです(笑)
リクエストもあったことですし、再び大久保さんに挑戦してみました。薩摩藩邸に逗留設定です。
テイストは、辛うじて…ほろ甘?
小娘ちゃんが吐息を吹きかける姿が目に浮かびます…ずいぶん手慣れた?感性の優れた?娘のようです(^^;)30/64