『いゃぁあーーーーーーーーーっ!!』
ダダダダダダーーーッ
タタタタタタッ………
ーーースパンーーーン!!ーー
「なんだっ!どうしたぁあ!!?」
「何事ですか!?」
藩邸内に響いた年若い娘の叫び声に、藩の要人である男二人が我先にと駆け着けて、部屋の戸を勢いよく開けた。中には真っ青な顔をして目尻を涙で光らせた、叫び声の張本人が佇んでいる。
『っっっっっあ、あいつが!突然現れて!!』
『私に、おっ襲いかかって来てっーーいやぁああっ思い出したくも無い!気持ち悪いぃ〜〜…』
そう言ってうずくまってしまった彼女の姿に、ただ事ではないものを感じた二人は…顔をしかめて緊張した空気を纏う。
「あいつとは誰だ!? どこにいる!逃げたのか!!?」
「外からの侵入は考えにくい。ならば藩邸の者としか…」
晋作という若くして頭領を担う男は、怒りを露わに地団駄を踏んだ。
「くそっ、俺の女に不貞を働く奴ぁ許せねぇ…とっ捕まえて切腹だっ!」
小五郎という参謀と統率を担う男は、悲痛な面持ちで娘を気遣った。
「怖かったろう…大丈夫かい?まさか邸内でこの様な事態を招くとは…」
『うっうぅっっ…っっく…こ・怖かったよぅ…』
小五郎が優しく背中をさすると、とうとう本腰を入れて泣き出してしまった彼女。晋作は居たたまれない思いと憤りから、犯人が逃げ出したと思われる庭へ飛び降りた…!
「必ず捕まえて、死ぬほど後悔させてやるっ!! 小五郎っ!ここは任せた!!」
「ああ、わかったよ」
*
しばらく彼女をなだめ続け、落ち着いてきた頃を見計らって小五郎は話しかけた。
「晋作ならどんな奴でも捕まえられる。私も居る、もう大丈夫だ」
『はい……すいません、こんな事で泣いたりして…』
「そんなことはない。君は女子なのだから、当前だ。こちらこそ、何と詫びればいいのか……」
『そんなっ、桂さんが謝る必要はないです!』
「いや!藩を取り仕切る者として、目が行き届いてなかった事を詫びさせてくれ。私と晋作の責任だ、本当に申し訳ない…!!」
『や…でも…お掃除は十分に行き届いてると思いますし…これはヤッパリ、自然の摂理と言いますか…仕方の無い事だと思うので…』
「……掃除?…自然の、摂理……というと??」
『ですから、アイツが何処に住みついてて、いつ姿を見せるかなんて…誰にも分らないじゃないですか…だから余計に現れた時の衝撃が大きいというか……でもまさか飛ぶなんて…驚き過ぎて泣いちゃいました。こんな過剰な反応、有り得ないですよね…大袈裟な…』
「失礼…?ひょっとして、"あいつ"と言うのは『蟲』のこと…なのかい?」
『え?…ええ、そうですけど…他に一体なにが??』
―――小五郎は何も言えなかった。
今ごろ派手に捜索隊を取り仕切っているであろう晋作を、どうやって収めようか…
そんな考えを早くも巡らせ、思案していた――――
2010/11/18
これってギャグ?自分が黒光りする"アイツ"が超苦手で…こんな話に。。29/64