うやむや


―――その日の夜―――



『桂さん…じゃなくて!小五郎さん、まだ起きてるかなぁ……』

一度は就寝前の挨拶を交わしたものの、
私は昼間のことが気になって眠れないでいた。


『32歳かぁ……』

この時代の人って結婚が早いと思ってたけど、小五郎さんはどうしてしなかったのかな?
小五郎さんなら、縁談は山ほど来そうなのに…


『・・・そっか』

長州は京を追い出され追撃をも受けた身だから、そんな余裕なんてきっと無い。
そんなことも忘れるなんて!

『バカだな、私……』


京に残って命を狙われ続け、
逃げ回りながらも一人で活動していたという小五郎さん……

きっと凄く大変だったろうな。
苦しくて、辛い時もあったかもしれない。

それに、淋しかっただろうな……


過去という誰一人として知人も頼れる人もいない、異世界にった一人という孤独感。
その心細さや淋しさを、小五郎さんは埋めてくれた・・・

優しい月明かりで、右も左も分らない真っ暗な道を照らして導き、慰めてくれた・・・



私も、彼の役に立ちたいな。

恩返しという意味もあるけれど、それよりも……小五郎さんのことが好きだから、ただ傍にいたい。

少しでも支えになりたい。


こんな時代じゃ、足手まといになるのが目に見えてるけど、
それでもヤッパリ・・・ずっと一緒にいたいよ。


――好きだから―――

でも、なんか違うような気がする。
なんていうか、もっとこう…根が深いというか、
小五郎さんの全てが愛しくて、なんでも受入れられそうな、確信的な何か。

今までの”好き”とは違う感じ・・・

これってもしかして「愛」なのかな?
“愛”……うん、そうかも。このスッキリ拓けた感はそういうことなんだ。

そっか、私、小五郎さんのこと“好き”じゃなくて“愛してる”んだ・・・


『あいしてる』……なんてね。


口に出したら少し恥ずかしかったけど、妙に納得できた。

“大好きで、愛してる”

その気持ちに気付けたのが嬉しかった。











先程から隣室の独り言がぼそぼそと聞こえる。


私は呟かれる声に耳を傾けていた。
愛しい人を傍に感じながら眠れるは贅沢の極みと、打ち伏したのだが……

最後の台詞に心中穏やかでいることが不可能となった。


しばらく沈黙が続いて、眠ったかな?と思ったその時に聞こえた言の葉。



(愛してる・・・か)


いったい誰に対しての想いかは、検討がついていた。
先程まで話題になっていた人物で……いま、ここにいる者。


私だ。



おそらく、間違ってはいないはずだ。
昼間にも彼女は私のことが好きだと言ってくれた……
言ってくれたがしかし、“愛している”とは聞いてない。



いま、私はとても苦しい。


これ以上ないくらい幸せなのに、これ以上を望む自分を必死に抑えている。

欲望とは底知れぬ・・・


愛しくて、大切で、優しくしたいのに、
抱き寄せて、拘束し、何もかも奪いたくなる・・・

こんな私を知られたくないのに、今すぐにでも会いにゆきたいと思う。
拒絶されたらと畏怖しながら、悦びを噛みしめている矛盾。



ひどい人だ・・・

私の心を掴んで離さない。幾重にも覆った理性を簡単に解きほぐし、
私ですら気付いてなかった本当の私を見せつける。

それが時には苦しくもあり、楽しくもあり・・・

人生に賑やかで艶やかな彩りが加わったような心地良さは軽妙だ。




私を惑わすあの娘を、今すぐ手に入れたいと思った。





―――離さないから・・・


他の誰にも決して譲れない、渡さない。

 
彼女は俺のものだ。心も、身体も、全て―――












2010/11/23
ギリギリセーフ・・・(なにが?)
ちょっと性的描写に踏み込みそうで危なかったです(^_^;)
この後、どうなっちゃうのかな。。というか小五郎さんの情事って想像できない!
だからこそ夢想したいような、したくないような・・・

※1:作中の短歌は管理人の創作です。
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