武市さんの胸を借りて、ひとしきり泣いたあと……
なんと、わたしはそのまま武市さんの腕の中で眠ってしまった。
気が付いたら自分の部屋で寝ていて、目が覚めたのはお昼頃。
泣き過ぎて目が腫れてしまい、
そんな酷過ぎる顔でみんなの前に出るわけにいかなくて……
わたしはお昼ご飯も夕ご飯も遠慮してしまった。
でも不思議と空腹ではなかった。
龍馬さんが心配して様子を見にに部屋の近くまで来てくれたみたいだけど、
事情を知る武市さんが上手く説明というか誤摩化してくれたようだった。
おかげでわたしは、一人でゆっくり心の整理をつけることが出来た。
あんなに苦しかったのに、いつの間にかスッキリしていて……
問題は何も解決してないはずなのに、心は妙に穏やかで落ち着いていた。
“何ができるか”じゃなくて“何がしたいか”
わたしは今この時をどう生きたいのか……それを考えた。
―――翌朝―――
昨日、わたしが武市さんに背負われて宿に戻ったということが
龍馬さん達にバレてしまったらしくて、
朝餉の席では武市さんが変な言いがかりを付けられ責められていた……
でもそれは、わたしが部屋に入ったことでアッという間に吹き飛んでしまった。
『みなさん、おはようございます!!』
入ると同時に口にした挨拶。
それからわたしはみんなに深く一礼して、笑顔を向けた。
「姉さん!いま…っ!」
「ちひろ…おまん、話せるようになったがじゃ!?」
「………っ!」
驚くみんなの中で一人、武市さんだけが笑顔で「よかったね」と返してくれた。
「武市は知っちょったんか!?」
「いや、今初めて知ったが?」
「武市さん冷静ッスね……流石です!」
「慎太、当たり前だろうがっ」
みんなのやりとりにクスクスと笑いながら、わたしは改めてお礼と、
心配かけたことのお詫びを言った。
「戻って良かった」「めでたいめでたい」「また声が聞けて嬉しい」などと、次々に口にする彼ら。
わたしはこの心優しい人達と出会えたことに、心から感謝した。
そして、何かあった時には必ず助ける……
その時のわたしに出来ることを精一杯やろうと心に誓った。
だから今後も剣術の稽古は欠かさないつもりだ。
守られるだけの存在にはならない!
みんなの側を離れない、共にこの時代を生きてゆきたい、
例え何が起ころうとも。
それがわたしの、心と身体の望むことであり“生きる道”だと思うから・・・
もしも悲惨な未来でも、もしも過酷な運命でも、
今日を後悔しなければ必ず明日も頑張れる。
―完―
≫あとがき
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