ちひろの様子をずっと見守っていた武市は、
彼女が自分の心に辿り着いたらしいことだけが判る。


――触れた心に君は何を感じているのだろうか……
 出来る事なら力になって、苦しみから解放してやりたい――

そう、武市は思っていた。


長く俯きがちに考え込んでいたちひろだったが、
ようやく顔をあげて武市を見つめる。

戸惑いの色を含んだ瞳は、まるで助けを求めているようで、
苦しくて苦しくて仕方がないと言うような……今にも泣き出しそうな表情だった。



武市は慰めるように彼女の頭を撫で付けた。


――この小さな身体の、優しい心の持ち主は、
  一体どれほどの思いで明るく振る舞っていたのだろうか。

 心の叫びを、身体を支配することで訴えかけ身を守る。
 人という生き物が、危機を感じ生き延びるため働かせた本能……

 それ程までに、彼女は苦しみ、助けを求めていたのではないか?

 ならば、放っておいて良いはずがない……!――


武市は目の前の彼女を愛しいと思った。

守ってやりたいと、心から大切に思う気持ちでいた。



「全ての物には意味があると僕は思う。それが必要だから在るんだ……だから、泣きたい時は泣くといい。今の君にはそれが必要なのだろう。考えるのは、それからでも遅くは無い……」









どこまでも優しい武市さんの物言いと笑顔に、
わたしの胸は更に強く締め付けられて、詰まっていた物が吐き出された……

涙と同時に、ドボドボと溢れ出す想いが止まらない。


苦しかった……わたし…悩んでたの…辛かったの……
溜まる一方のキモチ……吐き出してしまいたかったのね……


向き合ってあげなくてゴメン……逃げていてゴメンなさい。




――知らなかった。涙はココロの安定剤だ―――


わたしの“心”は、わたしの一部。

なのにわたしは、心を置き去りにして、無視して、偽っていたの。
自分で自分に呪いをかけて、バカみたいだけど……
未熟なりに、身を守る為に必死だったの。

でも、そんなこと出来るはずがなかった。

だって心が壊れたら、残された身体は
ただ“生きてる”だけで、本当には“生きてない”から。

複雑な関係。密接な繋がり。
心と身体、体と感情。
目に見えるものと、見えないもの。

自分で自分が分からなくなったり、
コントロールできなくて、勝手に動いたり……不思議な話だ。



でも、もっと不思議なのは、武市さんかもしれないな。
わたしですら気付いてなかった自分のことに、気が付いちゃうんだもん……



――ありがとう、武市さん……――


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