ある日の月夜――
私は今、桂さんと縁側に立ち並んで月を眺めている。
優しく包み込むように辺りを照らす月明かりは、この時代の人には街灯にも等しい有り難い存在。
こんなにも優しく、誰にでも平等に光を降り注ぐ月なのに…
以前に｢自分は冷たい月と同じだ｣と揶揄するように笑った桂さん。
そんなことはないですよと、
私も笑って答えられたら良かったのだけど…
その時の私には桂さんの笑顔が泣いているように見えたっけ。
あいにく私には、桂さんのように頭の回転が早く機知に富んだ人を説得できる力など…持ち合わせがない。
言ったところで上手く丸め込まれてたんじゃないかな…きっと。
「綺麗ですねぇ…」
そんなことを考えながら、口を出たのはありきたりのセリフ。
でも、この時代の月は本当に綺麗で明るくて…素直にそう思える。
―――そして、桂さんもまた綺麗な人だ。
「男の人なのが勿体無いくらいですね。」
ついそんなことを漏らすと、…え？と驚いた表情で桂さんが振り向いた。
「あ！すっすみません。…独り言…です…」
ヤバいと内心かなり焦りながら、尻すぼみがちに言い訳してみた。
『てっきり私は月を愛でての言葉だと思っていたけれど…？』
「あ・はい！半分は…そうです。」
『では残りの半分は？』
ニコリと微笑みながら問いかける桂さん…
―――目が笑ってない、気がする……
「え・えーと…言葉の通りと言いますか…何というか、そのぉ…」
――――どうしよう。
普通、男の人が綺麗だんなんて言われて嬉しいわけないよね？
ましてや、この時代の人達なんて侮辱と感じるのかも！？――
焦って目を泳がせていると…
ふいに桂さんの温かい手が私の両手を取って持ち上げ、目の前に優しく添えた。
「……え？」
『ふふっ…別に私は怒ってないから心配いらないよ？』
「そ、そうですか…良かった。でも何で…？」
『それは秘密…』
そう言って心なしかはにかむように笑った桂さんは、
やっぱり月明かりのように優しくて、温かくて、
見惚れてしまうほどに綺麗だった…
2010/11/01
処女作。就寝前の一筆書。どうか甘い夢が見られますように…1/64