朝、目が覚めると昨日まで靄が掛かって重かった頭がスッキリしていた。
3日前くらいから風邪気味で、
昨日の夕方からは高熱を出して寝込んでしまったわたし・・・。
みんなスゴく心配してくれて……
気にするなと言ってくれたけれど、
タダでお世話になっている上に
更なる迷惑をかけてしまった事が心苦しかった。
(治ったみたい……良かった……)
起き上がり、眠気眼をこすって視界が更にクリアになると、
足に力を入れて立ち上がった。
フラつかない身体を確認しながら布団を畳んで片付けて、
ポーチから手鏡を取り出し寝癖を整える……
(まだチョット熱っぽいけど、顔色は良いし……もう大丈夫そう!)
気分よく着替えを終えると、
見計らったようなタイミングで隣の部屋から声が掛かった。
「もうスッカリ具合は良いようだね……入るよ?」
(武市さん、相変わらずだな……きっと音や気配で隣人が何をしているか全てお見通しなんだろうな。)
わたしの返事を待つ事なく襖を開けて入ってくる人を、笑みを浮かべて迎え入れた。
「ずいぶんと顔色が良くなったな‥安心したよ。」
昨日の君は本当に辛そうだった……
そう小さく呟きながら、武市さんが優しく微笑んで、
わたしはその表情に照れくささを感じながらも答えた。
『武市さん達のお陰です』
お医者さんまで呼んでくれたことに感謝して
心配してくれた事と合わせてお礼を言って、
でも迷惑かけてしまった事も詫びなければ!!
そう思って話始めたわたしの、第一声と思考を遮ったのは・・・
・・・・何を隠そう自分自身だった。
*
彼女の身支度が終わっているのは分かっていた。
布団を片付け身支度をする音。パタパタと軽やかに動き回る足音。
「どうやら回復したようだな」
ホッと一息つくと、その行為に疑問を覚えた。
今すぐ顔を見て確かめたいと思う程、
以前から僕は心配性だったろうか……
声を掛け、返事を待たずに襖を開けると、
すぐ側にはいつもの明るい笑顔を灯した君が、
僕を迎え入れるように立っていた。
それを見ると同時に込み上げてきた温かさは何だ・・・?
「随分と顔色が良くなったな‥安心したよ。」
恐らくは覚えていないだろう昨夜の様子を零しながら
病み上がりの彼女を観察すれば、
まだ少し頬が紅いが問題は無さそうだった。
―――この考えは、彼女が口を開くと同時に覆されることになる。
「ありがとうございます」あるいは
「みなさんのおかげです」と、いつもの彼女ならそう答えるのだろうか。
「ご迷惑おかけしました」もあり得るが、この表情は謝罪よりも礼だろう。
……言葉にすればこのような事を一瞬の間に漠然と感じていた。
しかし出て来た答えは、予想とは異なるもので……
『――――――――――――っ』
「……え?」
『!?……』
――――僕と彼女は暫しの間、呆然と固まってしまった。
それもそのはず、
確かに彼女の口は、言葉を紡いだ。
しかし音が‥‥…
聞こえてくるはずの元気な声が、
いくら待てども響かない――――
2010/11/8
武市さんstoryにリベンジ。
そしたら書きたかった場面に辿り着けず…前置き話で力尽きちゃった。16/64