もう離さないから


もう丸二日以上、彼女と顔を合わせていない。

ただそれだけの理由で、
僕の心は荒れ狂っていた。

この無様にも浮き足立った自分の内実を、
いったい誰が想像できただろうか……

僕ですら俄かには信じられないのだから、
他の者なら真っ先に己の目と耳を疑うのだろうな。


「出来ることなら昔の自分に教えてやりたいよ・・・」


伝えたところで、“有り得ない”の一言で一蹴してしまいそうだが。

それでも、ほんの少しの可能性でもいいから、心の隅に用意があったのなら……
ここまで動揺することも、取り乱すことも無かったのではないか?
・・・そう、思わずにはいられない。

仮定に仮定を重ねても、意味が無いのは十分承知。
正直こんなことでも考えていなければ、平静を装う事ができない……




―――そんな自分が腹立たしく、嫌になる。


どうしたらいい?

どうすれば、この気持ちと向き合える?


向き合う?その必要はあるのか?

無かったことには出来ないのだろうか・・・




どうして、気づいてしまったのだろう・・・

どうして、好きになってしまったのだろう?


なぜ、一人では生きられない・・・

なぜ、君じゃなければならない・・・





表面では落ち着き払った態度をとるが、
取り繕った皮の下は枯渇していた。



―――少しでも早く会いたい。


―――少しでも長く側にいたい。


―――離れていては息を吸うのも苦痛。




任務に追われ、
極限まで気を張り詰めて日夜を過ごすことよりも、
余程に耐え難く感じるなど……


―――自分はどうかしている。

―――これが、大切な人を作った結果なのか。



なんと重い代償だろう・・・
そして考えるのは失ったものの事ばかり。



―――代わりに僕は、何を得た?






・・・・・・。






僕は、

そこでようやく気がついた。



―――全てが上手くゆく方法・・・―――





自分が手に入れるべきものと、そのためにすべき行動。

―――失敗を恐れる・・・

それは、自身の胸中奥深くに沈め、ひた隠しにしていた事実。





しかし、自分はまだ何もしていない・・・

逃げることなど許されない。


取るべき行動は・・・ただ一つのみ。




例え君が拒んでも、きっと僕は諦めない。


――逃さない。

必ず掴まえてみせる――


――そして絶対に、もう離さないから・・・――




「ふふ……覚悟していて下さいね?」



嘘のように晴れやかな心に嬉々迫る鼓動を感じながら、
僕は清々しい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。










2010/11/04
幕末志士恋愛事情Rank様の幕恋配信一周年祝いの企画参加作品。
同参加作品世界中で誰よりも愛してると繋がってます(^^*)


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