『はぁ……退屈ぅ〜』
沖田さんがいないだけで、
こんな暇になるなんて思いもしなかった。
いっつも仕事の邪魔をするようにちょっかい出してきて、
やっと落ち着いたと思ったら休む間もなく用を言いつけられたり、
甘味処に付き合わされたり……
気付いた時にはいつも夕餉の支度にかかる時間だった。
それが今日はどうしたことだろう。
大阪への使いで沖田さんが屯所を3日ばかり空けると聞いて、
溜まりにたまった繕い物がやっとさばける!と
喜んでいられたのも昨日の昼まで……
余った時間で昨日の内に出来る今日の仕事は全て捌いてしまったので、
朝の内に掃除や洗濯を終えた私は、
珍しく用事を言いつけられる事もなく、手持ち無沙汰となる。
『おかしいなぁ・・・』
手当たり次第に
「何か手伝えることはありませんか?」
と聞いて回っても、
「大丈夫よ、ありがとう」
「平気だ」
「手は足りています」
「用は無い、好きにろ」
「いらん」
等という言葉が返ってくる。
『こんなハズじゃなかったのになぁ・・・』
縁側に腰掛け腕をつき、
脚をぶらつかせながら空を見上げる……
『あ,雀だ・・・』
―――今ごろ沖田さんは、
任務を終えて京に向かってるころかな?――
『沖田さんの事だから、何処かで甘味休憩してたりして』
クスクスと小さく笑いながら、ぽそりと呟けば……
在るはずのない声が響いた。
「そんなこと、一度もしませんでしたよ」
驚いて振り仰げば、
沖田さんが私を見下ろしている。
『い・いつの間に!……というか何故!?帰りは明日じゃなかったんですか?』
「頼まれたのが他の方でしたら、そうでしょうけどね……僕は違いますよ」
『どうしてですか?』
―― ・・・・・・・・・。
「……もう!そんなの決まってるじゃないですか。貴女に少しでも早く会いたかったからですよ・・・でなければ、こんな汚れた旅支度のまま現れたりもしません」
言われてみれば……
普段あまり見かけない着物を身に纏い、
背には荷物をくくりつけたままの姿が目に入る。
『はぁ・・・そうでしたか。それで、一体私にどんなご用件ですか?』
すると今度は沖田さんが驚いた表情をした。
「まったく、貴女という人は・・・」
ヤレヤレと呆れたように大袈裟な溜め息をついて、
私の肩に両手を乗せる沖田さん。
「いいですか、よく聞いて下さいね?」
なぜに耳元でナイショ話……?
急な展開に少し戸惑いながらも、
沖田さんから真剣な空気を感じ取った私は……
全身に緊張を巡らせて、シッカリと頷いた。
「僕は貴女が好きなんですよ・・・
一人の女性として、
世界中の誰よりも愛してます」
緊迫した空気を打ち破るように、
いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべて沖田さんが口を開いた。
「分かりましたね?」
――私は、顔の中心に熱が籠もって苦しくて・・・
何故だかしばらく、上手くしゃべることができなかった―――
2010/11/02
幕末志士恋愛事情Rank様の幕恋配信一周年祝いの企画参加作品。
同参加作品もう離さないからと繋がってます(^^*)11/64