身なりを整えさせたエックハルトも交えて話し合いの席に場所を移す。そもそもの帰宅理由は調合がきっかけであったが、意図せず側近が勢揃いしてしまったことと、自分なりのけじめを付けるため、三人に意向を問うことにする。
「さて、こうして久々に其方らと顔を合わせることになったわけだが……私は今も一神官にすぎぬ。だが、今後はもう少し積極的に動こうと考えている。還俗がいつになるかは判らぬが、其方らは今の私にも側近として仕える気はあるか?」
三人の目に光が灯る。それを見て初めて、彼らを救うどころかずっと暗闇に放置して傷付けていたことを思い知る。
「勿論でございます、フェルディナンド様」
「私の主はいついかなる時も貴方様にございます」
「この身が朽ちるまでお仕えしたい所存です」
フェルディナンドは覚悟を決める。
「では、これより非公式だが其方らを再び側近に迎えることとする。私の指示に従い、私の大切なものを守ることに尽力せよ!」
「はっ!」
「「かしこまりました」」
盗聴防止の魔術具を起動する。
「ユストクス。其方には人探しを頼みたい。まずはこの者に接触し、情報を得たあとの対処はこれに従うように」
そう言って文箱から出した指示書を渡す。読み進めるうちにユストクスの顔色が難しそうに歪んでいった。
「フェルディナンド様、こちらの期限はどのくらいでしょうか」
「冬までに戻って来られる範囲で構わない。結果が伴わなくとも問題ない。生死が分かった時点で経過の報告を飛ばしなさい」
「かしこまりました」
「ラザファム」
「はい」
「其方には引き続き館の管理を頼む。それから三階の私室を夏の貴色で整えて欲しい」
三人が驚いたように息を飲む。
「……どちらのお部屋を整えましょう」
「そうだな、奥の部屋で構わないだろう。華美な装飾は避け、調度品は小型で実用的なものが良かろう。小さめの本棚と、書見台は必ず用意せよ。急ぎではないが次の夏までに寝具は揃えておくように」
「かしこまりました」
「エックハルト」
「はっ」
「其方にはこれを。人目を避けてカルステッドに直接渡し、返信はオルドナンツで構わないと伝えよ。詳しい内容を問われたらボニファティウス様に関わる重要なこと≠セと伝えて良い」
「お預かりいたします」
「それから其方がそのように浮かれていると周囲に怪しまれる。今後は間違っても取り乱すことなく通常通りに振る舞え=v
石に命じたことで、エックハルトがビクリと肩を揺らした。
静かに三人を見渡して、確認するように問う。
「質問はあるか?」
いかにも聞きたいことが山程あります≠ニいった体で、真っ先にユストクスが手を挙げた。
「では一つ、よろしいでしょうか」
「何だ?」
「フェルディナンド様のご婚約が決まったという認識で間違いないでしょうか」
「…………」
そうであって、そうではない。フェルディナンドの中では確定事項だが、今のところ表向きには難しい状況ではある。
「そうなるよう、努力しているところだ……」
「なんと! 因みにお相手はどちらのお嬢様で?」
「質問は一つではなかったか? 今はこれ以上は言うつもりはない。状況が変わりしだい其方らにも話すので、それまで大人しくしているように。他になければ本日はこれにて解散とする。それぞれ仕事に戻るなり自由にしなさい。私はこれから隠し部屋で調合に取り掛かるので、夕食の時間まで呼ばないように」
どこか呆然としている側近たちを放置して、言い捨てるようにして部屋を出る。寝室に移ると俄かに歓声のようなものが聞こえたが、気のせいだと己に言い聞かせて無視を決め込むフェルディナンドであった。
「さて、こうして久々に其方らと顔を合わせることになったわけだが……私は今も一神官にすぎぬ。だが、今後はもう少し積極的に動こうと考えている。還俗がいつになるかは判らぬが、其方らは今の私にも側近として仕える気はあるか?」
三人の目に光が灯る。それを見て初めて、彼らを救うどころかずっと暗闇に放置して傷付けていたことを思い知る。
「勿論でございます、フェルディナンド様」
「私の主はいついかなる時も貴方様にございます」
「この身が朽ちるまでお仕えしたい所存です」
フェルディナンドは覚悟を決める。
「では、これより非公式だが其方らを再び側近に迎えることとする。私の指示に従い、私の大切なものを守ることに尽力せよ!」
「はっ!」
「「かしこまりました」」
盗聴防止の魔術具を起動する。
「ユストクス。其方には人探しを頼みたい。まずはこの者に接触し、情報を得たあとの対処はこれに従うように」
そう言って文箱から出した指示書を渡す。読み進めるうちにユストクスの顔色が難しそうに歪んでいった。
「フェルディナンド様、こちらの期限はどのくらいでしょうか」
「冬までに戻って来られる範囲で構わない。結果が伴わなくとも問題ない。生死が分かった時点で経過の報告を飛ばしなさい」
「かしこまりました」
「ラザファム」
「はい」
「其方には引き続き館の管理を頼む。それから三階の私室を夏の貴色で整えて欲しい」
三人が驚いたように息を飲む。
「……どちらのお部屋を整えましょう」
「そうだな、奥の部屋で構わないだろう。華美な装飾は避け、調度品は小型で実用的なものが良かろう。小さめの本棚と、書見台は必ず用意せよ。急ぎではないが次の夏までに寝具は揃えておくように」
「かしこまりました」
「エックハルト」
「はっ」
「其方にはこれを。人目を避けてカルステッドに直接渡し、返信はオルドナンツで構わないと伝えよ。詳しい内容を問われたらボニファティウス様に関わる重要なこと≠セと伝えて良い」
「お預かりいたします」
「それから其方がそのように浮かれていると周囲に怪しまれる。今後は間違っても取り乱すことなく通常通りに振る舞え=v
石に命じたことで、エックハルトがビクリと肩を揺らした。
静かに三人を見渡して、確認するように問う。
「質問はあるか?」
いかにも聞きたいことが山程あります≠ニいった体で、真っ先にユストクスが手を挙げた。
「では一つ、よろしいでしょうか」
「何だ?」
「フェルディナンド様のご婚約が決まったという認識で間違いないでしょうか」
「…………」
そうであって、そうではない。フェルディナンドの中では確定事項だが、今のところ表向きには難しい状況ではある。
「そうなるよう、努力しているところだ……」
「なんと! 因みにお相手はどちらのお嬢様で?」
「質問は一つではなかったか? 今はこれ以上は言うつもりはない。状況が変わりしだい其方らにも話すので、それまで大人しくしているように。他になければ本日はこれにて解散とする。それぞれ仕事に戻るなり自由にしなさい。私はこれから隠し部屋で調合に取り掛かるので、夕食の時間まで呼ばないように」
どこか呆然としている側近たちを放置して、言い捨てるようにして部屋を出る。寝室に移ると俄かに歓声のようなものが聞こえたが、気のせいだと己に言い聞かせて無視を決め込むフェルディナンドであった。
2023/04/02