かをり
あれは、何という名前だっただろう――
聞き慣れない響きを持ち
それでも優しく耳に届いた時の、穏やかな幸福感がいつまでも私の内に残っている……
深く、深く、日毎にそれは広がって 柔らかに。
ふとした瞬間、まるで空気のように
辺りを埋め尽くしてしまう……
君だけが知っている――
その花の姿――
その花の香り――
知っているのは君だけなのに……不思議だね。
いつの間にか私の周りを香りが包み、目を凝らせば姿が浮かび、手を伸ばせばほら……
触れることも出来るようになった。
私はまだ、君には触れられないけれど。
それでもきっと少しずつ、少しずつ……近づいているのだろうなと、そう思う。
この香はまるで――
この花はまるで――
君そのもののようだ――