「どうしてこう毎日暗殺の依頼が絶えないのかな。世の中くだらない殺意が蔓延しすぎだよね」
俺は疲れた首をぐるりと回して続ける。
「もっと命を尊んで大切にするべきだよ」
するとナマエは肩をすくめた。
「それを一流の殺し屋に言われてもね」
たしかにナマエの言う通りだ。俺はたいして命を尊んでいないし、こんなのはただの建前に過ぎない。けれどこう毎日忙しいと、ちょっとした私怨だとかで金持ちの憂さ晴らしに依頼などされた日には馬鹿馬鹿しくてやっていられない。
殺したいなら自分でやればいいのにさ。
「ああ仕事行きたくない」
そう、結局俺が言いたいのはこの一言に尽きる。仕事に行きたくない。ただそれだけだ。
「へえ、仕事熱心なイルミでもそんなこと思うんだ」
「最近はね」
ナマエは意外そうに俺を見つめた。
「じゃあ前は平気だったの?」
「うん。ひとりでいても暇だし特に趣味とかないし」
「今は?」
「今も趣味はべつにないよ。でもお前がいる」
「それってつまりどういうこと?」
「…わからないの?」
「うん、わからないからきいてる」
鈍感もここまでくるとちょっとした殺意が沸くものだ。
なるほど、そうか。こうやって殺意は世の中に蔓延していくのか。理解した。
さて、仕事に行こう。
「ねえ、なんで無視するの〜」
席を立ってスタスタと歩き出した俺の背中に無邪気な甘えた声がかかる。ああ本当に馬鹿馬鹿しい。今はお前がいるから、だから仕事よりここにいたいだなんて、もはや言う気になれない。
20150425