団員の中でもナマエとマチは仲が良い。価値観や趣味が似ていて気が合うのだ。
天空闘技場。カストロとの試合を終えたヒソカはシャワーを浴びるとマチを呼び出してちぎれた腕の縫合を頼んだ。
「ハイ、終わり」
「いつ見てもほれぼれするねぇ。間近で君の念糸縫合を見たいがためにボクはわざとケガをするのかも」
「いーから左手二千万、右手五千万払いな」
ヒソカの社交辞令など相手にしないマチ。ヒソカは治療費を払うと性懲りもなく口説いた。
「ところでどうだい?今夜二人で食事でも…」
冗談なのはわかっている。しかしご丁寧に壁ドンまで決めて言いよるこのふざけた男。どうしたものかとマチが思った矢先、はかったようなタイミングでノックされたドアからナマエが現れた。
「ヒソカ、ドライヤー持ってき…」
開きかけたドア口でドライヤー片手に固まるナマエ。
「やあ、ナマエありがとう」
この状況を弁解する様子もなく笑顔で恋人を振り返るイカれた男にマチは頭を抱えた。ナマエはこういう冗談が通じる相手ではないのだ。
ナマエの手からドライヤーがすべり落ちた。それを拾おうと彼女の足元にかがんだヒソカはその瞬間勢いよく開閉されたドアにふっとばされた。
「死ね○○○」
放送禁止用語でヒソカを罵倒するとナマエは乱暴にドアを閉めて行ってしまった。
「見たかいマチ」
鼻から流血しているにも関わらずヒソカは心底嬉しそうに笑っていた。
「ナマエって本当にボクを好きみたいだ」
たった今世界で一番嫌いになっただろうけどね、とマチは思う。
「…どうするつもり?」
「ああ、夕食のことかい?」
「馬鹿も休み休み言いな。ナマエのことに決まってるだろ」
あの子泣いてたじゃないかとマチは責めた。
「うーん…もう少ししたら追いかけるよ。今はこの幸せを噛みしめたいんだ」
身悶え興奮しながら変態はこたえる。今の流れの一体どこに幸せを感じる要素があったのか。気にはなったがこれまでの経験上聞けば不快になるのが目に見えているためあえて触れないことにした。
「あんたナマエが来るのわかっててわざとやっただろ」
「当たり前じゃないか」
うって変わって真剣な顔で答えるヒソカ。彼の屈折具合には驚きあきれるしかない。マチはあからさまに顔をしかめた。
ナマエとマチは仲が良い。価値観が似ているし気も合う。ただし男の趣味だけは分かり合えないだろうとマチは思った。
愛してるっていう病気
(僕のせいでナマエが一喜一憂するなんて、夢みたいなんだ)
end
20150331