<これよりハンター学園文化祭を開催いたします。各団体は活動を開始して下さい>
校内放送が終わらないうちにクラスの皆が歓声をあげながらガラリとドアを開けた。同時になだれ込む客の行列。
今日は文化祭なのだ。ナマエのクラスは射的やスーパーボールすくいなんかを設けた縁日で参加し、女子は浴衣、男子はじんべえを着て接客することになっている。
「がんばろうね、ナマエ!」
じんべえを着たゴンが興奮気味に笑った。
「うん」
それにつられてナマエも笑顔になる。ゴンの興奮がすっかりうつっていた。
「いらっしゃいませ!」
はりきって頭を下げたナマエは、しかし次に顔を上げたとき「げ」と早速やる気をなくしてしまった。
「やあナマエ」
上げた顔の先で、いつ見てもキテレツな装いのその人物がにこりと笑っていた。ナマエはあからさまに嫌な顔をした。
(あれほど来るなって言ったのに!)
「首尾はどうだい。順調かい?」
「…お兄ちゃんさえ来なければね」
低い声で言ってにらむナマエだが、ヒソカがそれに動じるはずもなかった。
「照れるなよ」
ウフッと笑ったヒソカに鼻先をやさしくつつかれナマエは「キモい!」と彼を押しやった。
「えーお兄ちゃん、かなしい」
ヒソカは人差し指を口にやって甘えるが、相手にするナマエではない。
「後ろつまってる!早く行って」
「ええー、ナマエは接客してくれないの?」
拗ねたように言う兄。
「私は受付係なの。ハイいったいった」
しっしっと追い払うと楽しそうに笑いながら意外にもあっさりと従った。
とりあえず一度は胸をなで下ろすナマエ。しかしまだ安心はできない。あの兄のことだ。いつ何をしでかすか気が気ではない。お願いだからこの教室にいるうちは常人でいてほしい。
しかしナマエの願いもむなしく一分とたたないうちに背後でどよめきがあがった。
見ると兄がスーパーボールすくいの方でじゃんじゃかすくい上げてるのが見えた。バンジーガムで。
先程までビニールプールに浮いていた大量のスーパーボールはあっという間に兄のバンジーガムでひとつ残らずつり上げられカラフルな巨大数珠のようになってしまっていた。
(ああもう最悪!)
せめて他人のふりをしようと受付の仕事に戻ろうとしたところで
「ナマエー!見てみてこんなにつれたよ!」
教室中に聞こえるような大声で兄がこちらに手をふった。満面の笑みである。
どうしてくれるのだ一体。クラス中のみんながドン引きではないか。
さすがに見てみぬふりもできず、とうとう腹を決めて兄を叱りにいった。
「ちょっとお兄ちゃん!」
「大丈夫だよ。さすがに全部はもらって行かないさ。ゴミになるからね」
見当ちがいな気を配る兄にナマエは頭を抱える。
「そういう問題じゃないの!」
「あ、お兄ちゃん会社の会議はじまるからもう行くね」
兄は聞いていやしない。そーれ!とバンジーガムを解いてビニールプールにスーパーボールを投下する。ハルが水しぶきに気をとられているうちに兄は窓枠に足をかけていた。
「また明日も来るからね」
無駄に爽やかな笑みを残して兄はひらりと4階の窓から飛び降りていった。彼の奇行などもう嫌というほど見てきたナマエはもはや気にもとめない。が、この高さである。レオリオをはじめとするクラスメイトがばっと窓の下をのぞくとナマエの兄は何事もなかったかのように校庭を歩いていた。
「二度と来るな」
疲れた様子でナマエがつぶやいた。
「個性的な兄さんだったな」
「…やっぱり?」
ようやく文化祭一日目が終わり、後片付けをしている最中クラピカに感想をいただいた。
「それにしてもわざわざ来てくれたのだからもっと素直に喜べばよかったじゃないか。ナマエも嬉しかったのだろう?」
驚くようなことを言い出すクラピカ。
「何言って、」
反論しようとするナマエをさえぎってクラピカはすでに着替えた制服のポケットから何かを取り出した。
「落ちていたよ」
そう言われてナマエが受け取ったのは自身の生徒手帳だった。
「……なか、見たの?」
「ああ、悪いがそとに名前がなかったのでな」
クラピカは特にナマエをからかうでもなくいたって真面目な顔をしていたが、タイミングがタイミングなだけにナマエは決まり悪そうに眉尻を下げた。複雑な表情で生徒手帳を開く。
そこにはキテレツな兄の写真が、それはそれは大事そうにおさまっていた。
もちろんクラピカが入れたわけではない。
「…」
「……」
「おーい、クラピカー、ナマエー!」
そこに飛んできたキルアの声。
「それ終わったんならこっち手伝えよー!」
「はーい今行くー!」
小走りで向かい出すと、後ろからクラピカがつづいた。
「ナマエはいわゆるブラコンなのだろう?」
やはりいたって真面目にたずねるクラピカに、ナマエは複雑な表情でうなずくほかなかった。
「…よくご存知で」
end.