ホームシック・ナポリタン | ナノ


6わすれもの


夕方、暗殺の依頼を済ませたイルミは携帯電話を確認した。
今日はこの一件で終わりの予定だが家を通して緊急の依頼が入ることもある。依頼の連絡がないか見ているとめずらしく三男からの着信履歴が残っていた。折り返すとワンコールもしないうちに繋がる。

「もしもしあにき?」

「うん。何」

飛びつくような勢いで応答するキルア。その背後ではわめくような泣き声がしている。

「あのさ、みどり色のスコップあるだろ。あれふもとの公園に忘ー…ってさ、カルトが泣きやまないんだ。帰りに寄っー…来ー…」

ところどころカルトの泣き声で聞き取れない。それだけ聞くとイルミは一方的に通話を切った。うるさくてかなわない。
だいたいのことはわかった。キルアはまた敷地を抜け出してふもとの公園にでも行ったのだ。それであのみどり色のスコップを忘れでもしたのだろう。あれは兄弟の間で今なぜか人気のおもちゃだ。それを帰りがけに持って帰って来いというのだ。
執事に頼めばすぐにでも取ってきてくれる。しかしそうすると敷地を出て遊んでいたことがツボネや母親にばれてしまう。それを危惧して自分に頼んだのだろう。自分が彼に甘いことを彼は無意識にどこかわかっている。

「…ふう。仕方ないな」

つぶやいて携帯電話をポケットにしまう。そして高層ビルの屋上から、ちょうど螺旋階段を降りるかのように窓ガラスを駆けて地上へと降り立った。


十分もしない内に公園へ着く。さっそく例のスコップを探しにかかった。
園内に人影は見当たらない。スコップがそこにあるだろうと予想された砂場には無数の足あととイルミのすねほどの砂の山がそびえているだけだった。
しかし、イルミはすぐに気配を察知した。園内の片隅へ近づいて行く。
片隅の汽車の遊具まであと数歩。というところで中からサッと少女が飛び出て来た。少女は遊具の後ろに飛んでイルミから距離をとる。
その身のこなしの良さにイルミは感心していた。相当の使い手が教育したのだろうと。
かなり警戒されている。面倒だと思いながら、イルミは少女の左手に握られたみどり色のスコップに目をやった。

「そのスコップ弟のなんだ。持って帰るからくれる?」

「……キルアのお兄さん?」

うん。イルミがうなずくと少女は少しだけ警戒心を解いた。

「お前、キルアを知ってるんだ」

「さっきまで一緒にあそんでたの」

「へえ。まあいいや。それ貸して」

スコップをよこせとイルミは手の平を見せる。しかし少女はスコップを背に回した。首を横に振りかたくなに渡そうとしなかった。

「お前の家はどこ?」

「……」

「うちの執事に送らせる」

すると少女はゆるゆると首を横に振った。

「……帰りたくない」

「あ、そう」

面倒だ。殺して奪ってしまおうか。いやしかし少女の後ろにはおそらくうちに匹敵し得る使い手がいるだろう。怨恨を買えばもっと面倒だ。仕事に支障をきたす。場合によっては家族の犠牲もありえる。
考えた末、イルミは提案した。

「じゃあ俺の家に来る?そのスコップ、直接キルアに返したらいいよ」

少女はやっとうなずいた。


もうすっかり夕日は落ちて夜が来ている。イルミは弟達にそうするようにごく自然に、なまえの小さな手を引いて公園を出た。

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