1少女はゆくえふめい
その朝、テーブルに残された一枚の書き置きを見つけて騒ぎ立てたのはフィンクスだった。
『家出します。さがさないでください。なまえ』
「団長!どうすんだこれ!」
フィンクスはノックもなしに突入すると、部屋の主の鼻先にその書き置きを突きつけた。
「どうもしない。探すなとそこに書いてあるだろう」
部屋の主、クロロはいちべつをくれるとすぐにまた読みかけの本へと視線を戻す。
「探すなっていうのは探せって意味に決まってるだろ!」
乙女心は複雑なんだよと、フィンクスは腕を広げ熱く訴えた。しかしクロロの心にはまるで響かない。
「ならお前が探しに行ったらどうだ」
「…それが居どころさえ分かればすぐにでも行くんだけどよ…。…団長はなまえが行きそうなところに心当たりねえか?」
先までの威勢はどこへやら、フィンクスは頼りない声を出す。
「あったとして、迎えに行けば帰ってくるというものでもないだろう」
言いながらクロロは相変わらず眼で文字を追っている。フィンクスは食い下がった。
「なまえが出てった原因は昨日のあれだろ。団長が迎えに行ってやった方がいいんじゃえねえか」
「自分の意志で出て行ったのを無理に連れ戻してどうする」
クロロはまるで興味ないかのような素振りで本のページをめくる。それを冷淡に感じたフィンクスは無い眉を寄せる。
「…でも心配じゃねぇか。まだ小せえんだから何かあったら…」
「なまえは並みの大人より強い。自分の身くらい守れるだろう」
クロロは落ち着き払ってコーヒーを口に含む。
「…それはそうかもしれねえけどよ…」
だからといって無敵ということも無事という保証もない。フィンクスは元々良くない目つきをいっそう悪くして、不満そうにクロロをにらんだ。
「団長は心配じゃねえのかよ」
「…家出くらいしたいようにさせてやれと言ってる。…それともなんだ。俺が街中駆け回ってなまえを探せばお前は満足か」
クロロは窓際にカップを置いた。取った時よりも心なしか乱暴に。
「…それで見つかるようなところに居るとは思えないがな」
平静に見えるクロロがその実苛立っていることに、フィンクスは気がつかなかった。それ以上何も言えずただ拳をかたくする。
「………」
「…話は終わりか?なら出て行け。俺は本を読むのに忙しい」
「……んだよ団長のドライ!」
駄々っ子よろしくわめいたフィンクスにクロロはようやく顔を上げる。そしてこの上なく冷ややかな視線をフィンクスへ浴びせた。
「もう一度言う、出て行け」
耳が凍てつきそうなほど冷たい響きに、フィンクスはいよいよ肩を落とし部屋から出て行った。
「あーあ。団長、なまえと喧嘩してから不機嫌だよねー」
廊下で成り行きを見守っていたシャルナークとウボォーギンが彼をなぐさめる。
「…困ったわね」
母親代わりのパクノダはなまえを心配してため息をついた。
「なまえはたしかにまだ幼いけど団長が鍛えたんだからそこらの奴にはやられないよ」
シャルナークが楽観的にふるまうとウボォーギンがうなずき豪快に笑った。
「そりゃそうだな!むしろ返り討ちにされる奴が気の毒なくらいだ」
でも、とパクノダはうかない顔をしている。
「すぐに帰ってくるよ、きっと」
シャルナークは励ますようにパクノダの背中をやさしく叩く。
「…そうね」
パクノダはなんとか自分を納得させようとしてうなずいた。
フィンクスが乱暴に閉めたドアの向こうでは、クロロが本から顔を上げて窓の外を見ている。
Gone girl
(ところが2日過ぎ3日過ぎてもなまえは帰ってこなかった)