「クーロロ!おーきーてー!」
「…………」
「もしもーし、クロロー」
「……」
今日は全団員が出払っていてホームには俺となまえの二人きりだ。そのせいかなまえは朝からしきりに俺を起こしにかかってきた。冗談じゃない。
「ねーおきてってばー」
「………」
なまえは毛布ごと俺をつかんで揺さぶる。
「ねえ」
「……ん……」
俺が左に寝返るとなまえもすばやく左に回って来て、また揺さぶりながらうったえてくる。ゆうべも遅くまで本に読みふけっていたせいで眠気はいまだ最高潮だ。かんべんして欲しい。
「どっか行こうよー」
「…………」
今度は右に寝返る。なまえもまた右に回って来て揺さぶり続ける。
「ねえってば」
「……………ねかせろ」
追い払うように真上を向けば、なまえは毛布の上から馬乗りになって毛布をはぎにかかってきた。
「やーだー。どこかつれてってー」
「…………あとにしろ…」
毛布を引っ張り返すとどうやら無意識に強く引きすぎたらしく、なまえが「わぎゃっ」ともらしてベッドから落ちる気配がした。なまえならまず受け身くらい余裕で取れるだろうと頭のすみでぼんやり考えてから、その隙に頭から毛布をかぶり直す。
「あ!ずるいー。ヤダヤダ、あそんでよ」
起き上がって来たらしいなまえに再び「起きろ遊べ連れていけ」と揺さぶられながら、俺はとうとう意識を手放した。
それからどれくらい眠っていたのか、目を覚ますと部屋の中は打って変わって静かになっていた。時計を見るともう正午を過ぎている。ようやく俺はベッドから身体を起こした。
「…クロロー…おきてよ」
隣からなまえの声がして思わず目を見開く。まだいたのか。さすがにあきらめて部屋へ戻ったものだと思っていた。
「どっかいこうよー…」
「…ああ、わかった。どこでも好きなところに連れて行ってやる。どこに行きたいんだ?」
たずねて隣を見る。しかし返事はない。
なまえはなんと眠っていた。気持ち良さそうに寝息をたてて。どうやら今さっきもらしたのは寝言だったらしい。ということは、なんだ?なまえは夢の中でも俺を起こしてるのか。
しばらくあっけにとられてその寝顔を見ていたが、しだいにおかしさがこみ上げてきて、気がついたら声を上げて笑っていた。久しぶりに馬鹿みたいに笑った。
これはもう、今日はどこにも行かなくていいだろう。正直なところこんな日は、くだらない街へくりだすよりもなまえとふたりこの誰もいないホームにいる方がよほど満ち足りる。
とはいえかんじんの本人が夢の中なのだから、そうだな、もう一回寝るか。
隣でコロンと丸まって横たわっているなまえを、抱き枕がわりにして俺はもう一度布団の中へともぐりこんだ。
二度寝
(ふたりいっしょに夢の中)