15たいしたことないピロートーク
その夜のこと。唐突に部屋のドアが開けられた。
ノックなしに入ってくる奴といえばフィンクスだろうか。今度は何の用だとクロロは読みかけの本から顔を上げて、少し眼を見張った。ドアからのぞいていたのは思いがけない小さな訪問者だったのだ。
「…あのね、一緒に寝ていい?」
パジャマでぬいぐるみを抱えたなまえはばつの悪そうな顔でクロロの顔色をうかがった。すねていたはずのなまえの意外なおねだりに、クロロは驚きながらも部屋へ招き入れた。
「…もう怒っていないのか」
「おこってる!」
ならば何故。普段はパクノダと仲良く寝るなまえが、それも今日に限って。クロロは首を傾げた。
「パクはどうした?」
「………おしごと行っちゃった」
ああ、なるほどとクロロはうなずく。
「じゃあシャルは」
「…デートだって」
「フィンクスは?」
「クロロのとこに行けっていうの」
へんでしょと、今度はなまえが首を傾げて見せたが心当たりのあるクロロはあいつは放っておけと一瞬冷ややかな視線をフィンクスの部屋の方へ送った。
「ウボォーはどうした」
「いっしょにねたらつぶされちゃうよ」
「……」
なるほど、それで俺のところに来たわけかと納得した。
「……クロロ」
なかなか返事をくれないクロロを不安気になまえは見上げた。
「わかってる。こっちへおいで」
クロロは笑って手招きする。とたんに足元まで駆け寄ってくるなまえを抱き上げてベッドに降ろした。明かりをテーブルサイドの小さなものに切り替えると部屋はオレンジ色の光でほのかにに照らし出される。なまえはごそごそとベッドの中にもぐりこんで横になり、傍らで本を片づけだしたクロロの背中を見つめた。
「クロロはまだねないの?」
クロロが振り返るとなまえは物足りなさげな顔でこちらを見ていた。
「もう寝るよ」
こたえるとなまえはぱっと顔を輝かせてとびきり嬉しそうな顔をした。それを見て少し笑うとクロロは着替えをすませてなまえの隣に入る。しっかり抱かれたテディベアとなまえと川の字になった。
「おやすみクロロ!」
「…おやすみ」
クロロが手を伸ばし明かりを消すと部屋は暗闇に包まれた。
「…ねえクロロ」
しばらくしてなまえがつぶやく。
「なんだ」
「まだおきてる?」
「…起きているから答えてるんだろう」
あきれたように言うと何が面白いのかなまえは子供特有の高い声で笑った。
「あのねクロロ」
「なんだ」
「ゾルディックの家のベッドはすーっごくでかいの。私がねてても右も左もずっとベッドがつづくのよ」
「ほう…親切なベッドだな」
「え?」
「今日は気をつけろよ。俺のベッドは対応してないぞ、お前の寝相の悪さに」
「…わるくないもん、そんなに」
暗闇の中でなまえが頬を膨らませたのに気づきクロロは短く息を吐いた。そしてふと気づいたようにたずねる。
「…大きいベッドが欲しいか?」
クロロのシングルベッドは二人と一匹のテディベアで満員だった。なまえはぶんぶんと首を横に振った。
「広いのはもういい」
布団の中でもぞもぞと動きクロロの服をつかむと胸元に顔をうずめた。
「広いとね、さみしくなる」
「…そうか」
クロロはなまえの頭を撫でて小さな背中に手を回した。そしてまもなくはじまったなまえの寝息を聞きながらひそかに安堵の息をもらす。
いつの間にかなまえの腕から抜け出たテディベアがベッドの端で笑っていた。
Have a nice dream!
(彼女がホームを巣立つまで)
ーホームシック・ナポリタン− end