12ring ring
「イルミか?」
「うん。用件は?」
携帯から聞こえてきたのは客になって間もないクロロの冷静な声だった。
「なまえがお前のところに行ってるだろう」
ほとんど断定的に彼はたずねてきた。
「まあね」
「なまえに伝言を頼む。もちろんただでとは言わない」
「なまえならちょうど呼べるところにいるよ。代わらなくていいの?」
「今のなまえは俺の話を聞きたがらない」
伝言を聞き終えたイルミはガーデンテーブルで待つなまえに目をやる。そしてほんの少しの間思案してから言った。
「伝言は伝えないし、なまえはかえさないって、言ったらどうする?」
「なまえを置いていてもお前にメリットなんかないだろう」
淡々とした口調が返ってくる。
「そうでもないよ。なまえはあの通り身体能力が高いし弟達もよくなついてる。暗殺を仕込んだら最高かも」
「なまえが暗殺をやりたいと言ったのか?」
「うん」
平然と嘘をつきながらイルミは驚いている。なまえの意志なら尊重するとでも言いたげなクロロの言葉に。たとえキルアが盗賊になりたいと言っても自分は聞き入れたりなどしない。絶対に。
「…直接本人の口から聞くまではなんとも言えないな」
「やっぱり電話代わろうか?」
なまえを操るくらいわけないことだ。
「いや、直接会って確かめる」
「なまえを会わせないって言ったら?」
「…こちらから行くまでだ」
「うちの警戒網は厳しいよ」
たいしてなまえに執着があるわけではなかったが、クロロと少女の関係は弟と上手くいかない自分にどこか重なって、ついいらない干渉をしてしまった。鉄壁の玄関と番犬。精鋭の執事達、そして対敵用に入り組んだ構造の敷地。かの有名な幻影旅団ならこれくらいは容易く越えてくるだろうか。思案していると電話口から押し殺したような低い声が聞こえてきた。
「手段は選ばないと言ってるだろう」
携帯からもれてきそうな殺気にまずいなと思う。全面戦争になれば被害は小さくないだろう。そもそも少しからかっただけのつもりが予想以上に本気にされてしまった。クロロは、いや、蜘蛛は上客だというのに機嫌を損ねてしまうなど。そう言えば自分はこの手の会話が分かりづらいとよく言われるのだ。
「はは、冗談だよ。伝言はちゃんと伝える。だから妙なこと考えないでね」
ring ring
(……ねえ。なんか団長さらに機嫌悪くなってない?)
(…近寄りたくねえなあ)