11暗殺一家の長男
ゾルディック家で過ごす日々はキルアやアルカと遊んでいるうち何の不自由もなく三日目を迎えようとしていた。
「ねえねえ今日は何してあそぶ?」
朝食の後、期待に眼を輝かせてたずねるなまえにキルアは急ぎ足で廊下を行きながら謝った。
「わりーけど、今日は修行しないといけねえんだ」
「…ごめんね。わたしも修行なの」
それに続きアルカも行ってしまう。
「…そっかあ…」
取り残されたなまえはしょんぼりと肩を落としてうつむく。キルアが廊下の奥から振り返って手を振った。
「夕飯の時にまたな!」
なまえも顔を上げて元気よく手を振り返した。
「うん!修行がんばってねー!」
「あとでなー!」
とはいえやはり残念ななまえはとぼとぼと当てもなく屋敷内を歩き回った。
角を曲がったところでドンと何かにぶつかり軽く吹き飛んだ。
「いたっ」
打ちつけた鼻をおさえながら見上げるとイルミが立っていた。
「ああ、ごめん」
首をかしげて見下ろされる。なまえは短く首を横に振ってすばやく起き上がる。その一連の動きを注意深く見ていたイルミは興味ありげにたずねた。
「…お前体術は誰に教わったの」
「クロロ」
「え、幻影旅団の?」
旅団からは何度か依頼を請け負ったことがありイルミにも面識があった。
「うん、そうだよ」
「お前、クロロの子供なの?」
「ちがうよ。なまえの家族いなくなっちゃったからクロロがお父さんの代わりなの」
「…ふうん」
合点がいかない相槌。今でこそ、そこそこ使える体術を身につけているが元は何も知らなかっただろう子供を育てて一体どんなメリットがあったのかとイルミは腑に落ちない。
「なんでクロロはお前を育てたのかな」
「……なんで?」
なまえは考え込む。クロロが自分を育てることにどんな意味があるかなど考えたこともなかった。
「知らないんだ」
「………」
「まあいいけど。じゃあね」
気が済んだのかイルミは背を向けて歩き出した。なまえはその後追った。
「お前、何でついてくるの」
「……なんで私を育てたのかな」
「知らないよ。家に帰って本人に聞けば?」
「…やだ」
振り切ろうと速度を上げるがなまえはなんなくついてくる。
「…あそんで」
「俺はお前の遊び相手にはならないよ」
「…………」
屋敷を出て山に入る。さらに速度を上げて木から木へ飛び移って奥へ入る。それでもまだついてくるなまえにイルミは驚く。スピードはキルアよりも上。もちろん戦闘面や殺る技術はキルアの方が断然上だが、蜘蛛の頭が育てただけあってあなどれない子どもだ。とうとうイルミが折れた。久しぶりの休日に敷地内を全力で鬼ごっこするほど馬鹿らしい過ごし方もない。
「……めんどくさいなあ。じゃあ話すだけだよ」
とたんになまえは顔を輝かせた。それを見てイルミは怪訝な顔をする。
「お前変わってるね」
「なんで?」
「弟達は修行とかでもないと俺についてきたがったりしないよ。むしろ一緒にいたそうじゃない」
「どうして?」
「それがわかれば苦労しないんだけどね」
二人は敷地の庭園で白いガーデンテーブルについた。
「お前は家出してるんだって?」
「キルアに聞いたの?」
「質問してるのは俺だよ」
「そうだよ」
「そもそもお前はどこに住んでるわけ」
「ないしょ」
「あ、そう」
「家出の理由は」
「………」
「それもないしょ?なら別にいいけど」
「…クロロとけんかしたの」
「なんで」
「……仲間じゃないって言ったから。なまえのこと」
「それの何が問題なの?」
「仲間じゃないって言われるのはかなしいもん」
「そうなの?」
「そうだよ。でもそれだけでけんかしたわけじゃないよ」
「ふうん」
「自立できるようになったらホームを出て行けって言われたの。私はそんなのいやなのに」
「それで?」
「そのとき近くにシャルがいたのね。あ、シャルっていうのは蜘蛛の団員のことでやさしくっていつもなまえの味方してくれるの。それで出て行くならシャルと一緒にするって言ってシャルを引っ張ったのね」
「そしたらクロロの機嫌が悪くなった?」
「そうなの!どうしてわかったの?」
「なんとなくね」
「シャルと一緒はダメだって言うの。みんなはわからないっていうけど私わかるの。いつもと同じみたいだけとクロロ、ちょっときげんわるくて意地悪っぽかった。それでね、自立したらもう蜘蛛にかかわるなって言ったの」
「それでけんか?」
「……うん。だったら今すぐ出てってやる!て思った」
「……お前みたいな顔してさあ」
「え、どんな顔?」
「なんか喜怒哀楽はげしい感じ。そういう顔で、前はよく話してたよキルア」
「今はしないの?」
公園で会ったときキルアは元気で表情豊かな少年だった。兄の前では違うのだろうか。
「少なくとも俺の前ではね。しなくなったな。楽しそうな顔とか」
少し沈んだイルミの声。
「さみしい?」
なまえが覗き込むとイルミは聞き返した。
「さみしい?」
首をかしげる。
「俺にとってはそれがよくわからないかもな」
着信音。
「ちょっと待ってて」
イルミは携帯を持って席を立ち離れていった。
薄いピンク色やレモン色の薔薇が咲く少し遠くの庭園を歩きながら誰かと話しているイルミ。その姿を眺めながらいつの間にかなまえは団員たちのことを考えていた。パクはどうしてるだろう。フィンは。シャルは。