「昨日あれから寝てないのかい?」

「………ん…」

「朝ごはん食べてないじゃないか」

「……あー…」

「ダメだろ、ちゃんと食べないと」

「んー…」

昨夜から名前はすっかり読書に夢中でこの調子だ。何を話しかけても生返事。やれやれとヒソカは肩をすくめた。

リビングの窓際にある革張りのソファ。昨夜ヒソカが仕事から帰ると名前はもうそこに巣食う本の虫と化していた。午前3時を過ぎても寝室へ来ない名前にまだ寝ないのかと聞くと「ごめん先寝てて」。ようやく口をきいたと思えばこの一言だった。ひとりで寝るベッドの冷たかったこと。
そして今日も朝から今にいたるまで名前はまともに口を聞かず食い入るように本を覗き込んでいる。久しぶりに二人で過ごす休日だというのに、とヒソカは多少面白くなかった。
読み終わるまで待とうとは思ったものの、昼を過ぎても名前はソファで本をめくっている。
ヒソカが腕によりをかけて作ったパスタが冷めても、3時になって名前の大好きなホットケーキを焼いてもその光景は変わらなかった。

「名前、ホットケーキいらないのかい?」

「うーん…」

「キミさ、昨日の夜からずっとソファにいないかい?」

「んー…?あとでたべる…」

やはり返事はうわの空だ。

「そんなに寝てばかりじゃ身体がなまるよ」

「……わかった、わかった」

「じゃあボクと手合わせしよう」

「うーん…」

「その本そんなに面白いのかい?」

「えー…?」

「ボクよりも?」

「……」

「ねえ」

「…もう、うるさいなあ。ヒソカちょっと静かにしてて」

「……」

「………」

あ、やばい。言い過ぎた。思って名前が顔を上げた時、すでにヒソカは不穏なオーラを出してソファの前に立ちはだかっていた。

「ようやくしゃべったと思ったら、キミの口は本当に可愛くないことばかり言うんだね」

ヒソカの影が名前とソファに差し掛かる。

「……ご、めんなさい」

「もうおそいよ」

貼り付けたような笑みを浮かべ覆いかぶさってきたヒソカのせいで名前は夕方までソファから降りられなくなるのだった。
end
20150321
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