「…だからもう一度やり直してみようかと思って」
こういう時、"うん。それがいいんじゃない"がイルミの常套句で、適当と言ってしまえば適当なあしらい方が彼の常だった。私にしたって相談しても何か意見が聞けるだなんてもはや期待していなかったし、要するにいつも通りのあの適当なあいづちが欲しかっただけなのだ。あいつとやり直す私の背中を押してくれるような、肯定の言葉がもらえればそれでよかった。だから、
「安易だよ、その考えは」
なんて予想外の言葉に耳を疑った。てっきりいつものように"いいんじゃない"と言われるものだとばかり思っていたし、そもそも話すらまともに聞いてもらえていない可能性だって考えていた。
しかしどうも今日のイルミは一味違うらしく、とうとうと説教をされた。
「それじゃあクロロをつけ上がらせるだけだよ。また同じことのくりかえしでしょ。いいかげん断ち切りなよ。それともまた泣きたいの?それならもう止めないけどまた夜中に電話してきて泣きついてこないでよ。"イルミ私もうやだ助けてー"」
「……」
真顔で私の声を真似してみせられて、情けないやら恥ずかしいやら。
「俺の言ってること間違ってる?」
「いえ、正しいです…」
「そう、よかった」
「今日はなんだか真剣に答えてくれるんだね」
「うん、この間ヒソカにダメだしされたから」
ムカついて殺そうかと思ったよ、なんていう物騒な発言はこの際聞かなかったことにする。
「なんて?」
「そんなんじゃ友達もいなくなるよって。べつに元々いないけどね」
ひょうひょうとしてコーヒーを飲むイルミ。私友達じゃないんだって。ちょっとショック。
「それに大事な人間の相談にはちゃんと乗るべきだって言われた。名前は俺にとって大事な人間だから」
「え、」
今日は耳を疑ってばかりだ。
「なに?」
「あ、や、そんなこと言われたら照れるっていうか。…それにイルミにも大事な人間とかあるんだなあとか」
「お前俺のこと何だと思ってるわけ。殺すよ」
「ご、ごめん」
「家族と仕事仲間には大事なやつくらいいるよ。…話を戻すけど、とにかく問題に正面から向き合いなよ。俺は名前が大事だと思うから、いいかげん前に進んでほしい。でもどうしてもまだクロロとやり直したいっていうならまた泣き言くらい聞いてあげてもいいけど、本当いうと名前が泣くところはもうみたくないんだ」
その言葉の効力は絶大だった。だってあのイルミが言うのだ。いつになくやさしく。それに大事だって。私のこと、大事だって!
なんだか熱い友情を感じる。ここまで強く背中を押されたらもう前に進むしかないでしょ。
「…そうだよね。ありがとうイルミ。私、クロロと別れてくる!」
やはり持つべきものは友達だな、なんて感動すらしてしまっていた。
「本当?」
「うん!どうせなら平手打ちでもかましてこようかな」
固い決意を胸に、気合いを入れようと一気にコーヒーを飲みほす。
「よかった。俺、名前のことが好きだからさ」
私は盛大にコーヒーを噴き出した。
「うわ、汚いな」
「…イルミ、今なんて?」
「ヒソカに言われたんだよね。ちゃんと相談に乗って別れさせれば自分のものにできるだろ、って」
「…」
「なに固まってるの?早くクロロと別れてきなよ。それで俺とつき合おう」
イルミに恋愛相談をするのは今日限りにしようと思った瞬間だった。
end