「私は貴方のなんなんですか」

「団員ナンバー12。俺の足だ」

「…」

「不満そうだな。抱き枕とでも言って欲しかったのか?」

奴はそう言って挑発的に笑ってみせた。団員みんなに聞こえるような声量はわざとだろう。なんて悪趣味な男。抱き枕って呼ばれたい?冗談は顔だけにしてよね。


***
何が問題かって、このところ毎夜という毎夜、どこからともなく現れるクロロによって私の睡眠は妨げられてばかりいること。
どんな能力を使っているか知らないけれど何度私が拠点を変えても必ず夜には不法侵入を果たして、私の抗議にはろくに耳も貸さず私のベッドで眠る。そうして朝になってみると影も形もない。
初めてマイホームに侵略してきた夜、安眠を得たとか馬鹿げたことをほざいていたけど、おかげさまでこっちは寝不足の毎日だ。本当に冗談じゃない。

言ってやりたいことは山ほどある。けれど普段はまるで居所が掴めないし、夜は静かに眠りたい。そこで旅団活動日の今日、ここぞとばかりに苦情を申し立ててやろうと私は息巻いてきたのだ。

「へえ。団長と名前ってそういう関係だったんだ」

シズクが発見でもしたように言った。不愉快きわまりない誤解だ。

「ちがうってぱ。団長が勝手に押しかけてくるの。合意じゃないの」

「合意?そういう言い方ってやっぱり男女の仲…」

「ちがうちがう!ありえない」

なんとか言ってよ、とにらむように視線を送っても、クロロは楽しそうに私の反応を見ているだけだった。

「じゃあ団長のセフレ?」

鈍器ででも殴られたような威力のその言葉に、私はクラクラする頭をおさえた。

「絶対ないから」

「でも一緒に寝てるの?」

「強要されてるの!恋人でも愛人でもないのに」

「ええ?それは…」

「セクハラだよね。最低だよね。」

あからさまに眉をしかめたシズクを前に、どうだみろとばかり胸をはってクロロの様子をうかがうと、彼はあごに手をあてて何やら神妙に考えている。

「…そうか。つまり、お前は俺の恋人か愛人になりたいと」

「言ってません。頭沸いてますか」

「違うのか?それは残念だな。夜の相手もしてやれると思ったが」

「間に合ってます。とにかく不法侵入と安眠妨害はやめて下さい。私が言いたいのはこれだけです」

キッパリと宣言すると、クロロは衝撃を受けたようにうちひしがれてみせた。

「…困ったな」

「困ってるのは私です」

「そう言うな。人肌恋しい時期なんだ」

「…ヒソカと寝てあげたらどうですか?団長にぞっこんじゃないですか」

「ボクをゲイにするなよ」

ヒソカが横で文句をたれた。
すると偉そうに座っていたクロロが不敵に笑って口を開いた。

「俺にとっての性的対象は名前、お前ひとりなんだ」

小難しい言い回しに、はて、と私は首をひねる。
クロロはものものしく続ける。

「言っておくが、これは愛の告白だ」

ぱかん。馬鹿みたいに口を開けてかたまる。さんざん蜘蛛の足だの抱き枕だのと言っておいて、何を言い出すんだこの人は。
でも真剣にそう言うなら私だって返すべき言葉がある。そもそも私は。いやでもクロロは。
錯乱しかけて何か素直なことを言いそうになった。けれど次の瞬間には

「どうだ?抱いて欲しくなったか」

としたり顔で言ったクロロに向かって隣の男を投げつけていた。誰がなるか。

「ヒソカでも抱いてろ」

と私の捨てゼリフ。


***
その日の夜、人の気配に目を覚ますと月明かりのさすカーテンに見慣れたシルエットがあった。
今日も今日とて私の安眠は盗まれるのだ。昼間にあれだけ言ったっていうのに。
うんざりした顔の私を見て「あきらめの悪い奴だな」なんてぬかす。どっちがだ。
そうして当然のように部屋へ上がり込むと、例のごとく私のベッドにもぐり込んできた。ああ、もう。

「昼間言ったことに嘘はない。そして今のお前にいい返事を期待しているわけでもない」

半ば強引に私を抱き寄せながら、月明かりに見えた真剣な表情。

「だが、俺は欲しいものは必ず手に入れる」

「うるさい。来るなセクハラ男」

後ろから抱きしめられて、うなじに唇が、胸に手が触れた。一瞬本気で殺してやろうかと思う。
けれど、数秒もしないうちに耳元で聞こえはじめた無防備な寝息に殺意はあっさりとそがれてしまった。実際返り討ちにされる可能性もあるからと言い訳してもいいけれど、なんだかんだ言っても私はクロロに甘いのだ。
ああ、寝不足の日々は当分終わりそうにない。
end
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