「飛影、飛影」
「……」
「だいじょうぶ?こんなところで寝たら風邪ひくよ」
「……」
壁際に座り、眠りかけていた飛影を名前がのぞきこんでいた。
「歩ける?肩貸そうか」
「必要ない。ここでいい」
目は開いたものの、名前の顔はみることなく答えた。
「寒くない?」
「…何故、俺にかまう」
「今、毛布持ってくるね」
問いを無視して廊下の奥に消えた名前の背中を彼は怪訝そうに見た。
酔っ払いの介抱なら、転がった缶に埋もれて雑魚寝している幽助や桑原を優先すべきだろう。
第一自分は酔っていない。
名前の飛影に対する世話焼きは今日にはじまったわけではないが、最近目に見えてそれが増えた。
なぜ自分に構うのか。
「なんなんだ、あいつは」
「気になりますか」
独り言に返答があったことで飛影は一瞬目を見開いた。
気配を絶って近づく奴といえばやはり彼しかいないだろう。
またしても不意をつかれたことがしゃくで舌打ちをした。
「蔵馬か」
「何故俺にかまう、ですか」
「…盗み聞きとは、つくづく悪趣味な奴だ」
「俺の見解でよければ、質問に答えようか」
「…ふん、聞いてやる」
「名前が飛影にかまうのは恋をしているからでしょうね、おそらく」
「恋?…なんだそれは」
「一般的には異性に対する思慕の感情を指します。幽助と彼女が互いにそうだ」
蔵馬の視線の先にはつぶれている幽助と介抱する螢子の姿。
「名前は異性として飛影に惹かれていて、できることなら貴方もそうであって欲しいと願っている」
とうてい理解できない。
自分はそんな感情を持ち合わせていない。
「それが恋とやらか。ふん、くだらん」
クスクスと蔵馬が笑う。
「なにがおかしい」
どこか楽しげに彼は答えた。
「耳、赤いですよ」
剣を抜いた時には蔵馬はすでに逃げおおせていた。
「どうしたの?ここで抜いたら危ないよ飛影」
ちょうど廊下の奥から毛布を抱えて現れた名前は事情を知らず無邪気に首をかしげた。
「あれ、飛影、耳赤いよ」
直後、大きな舌打ちが室内にこだました。