深夜二時過ぎ。寝室のドアが開く音に薄く開いた目をこらす。ようやく読書を切り上げたらしいクロロがひやりとした外気を連れてベッドの隣に入ってきた。
「うわ、クロロ冷たい」
冬の冷気にやられてクロロの身体は氷のように冷たい。毛布の中で反射的に距離をとって避けた。1℃だって体温を奪いとられまいと。
「…寒い。暖をとらせろ」
クロロは不満げな声とともに身を寄せてくる。
「やだよ冷たい。くっつかないで」
そっぽへ寝返りを打って逃げた。けれど私の文句なんてどこ吹く風でクロロは背後からにじり寄ってくる。しつこく足までからめてくるので振り返って少しにらむ。叱られるのを今か今かと待っているような笑顔とはち合わせた。思わず脱力する。
…まったく、小さないたずらっ子みたいなんだから。
冷えた腕に抱き寄せられた。
「…くっつかないでってば」
振りほどこうともがく。
もがけばもがくほど引き寄せられて最後には背中から腕の中に閉じ込められた。
「あきらめたらどうだ」
耳に直接響くクロロの声。
言うことやること勝手気ままで厄介な人だ。けれど彼の両腕はまるで「行かないで」と訴えるような抱きしめ方をする。迷子になった子どもみたいではねつけられない。こういうところがクロロはずるい。
降参だよ。
大人しく振り返って彼の胸に顔を寄せた。応じるように背中に手の平が回る。
シャツごしに感じるいつものリズムが好きだと思う。彼が好んでつける香水の匂いも。気が遠くなるほどの安心をくれる。このまま眠ってしまえそうだ。
私の背中に回っていたクロロの手がゆっくりとシャツの中へ入ってきて直に肌に触れた。冷えた指先に背骨をなぞられる。
上へ上へとあがってくる。ひとつひとつ触って数を確かめるみたいに。
「……クロロ…ゆび、つめたい。……寒い」
追い詰められる感覚に耐えながら、うわごとのようにつぶやいた。
クロロは待ってましたと言わんばかりに微笑んだ。
「今からいやというほどあたためてやる」
身体を起こしてさっそうと私にまたがった。
「ばか」
まったく口実を作るのがうまいんだから。
アイスクリーム・ナイト
(冷たくて甘い)
20150612