「彩月さん、手紙来てたよ」


「え?私に?」



よく晴れた休日の朝。
私は使用人を解雇されて暇だった(こっそり仕事をしようとしたら彼にバレてとめられた)ので自室で彼の手が空くまで読書をしていたら、使用人の一人が手紙を持ってきた。
誰からなのか疑問に思いながら手紙を受け取り、使用人が出ていってから手紙を開ける。



「あ…」



相手は私の義父、柳生比呂士の抹殺を命じた張本人だった。



手紙には『この手紙が着いた3日後、柳生比呂士を殺せ』と書いてあった。









―――――

――――――――――





「彩月?」


「っ!?」



ちょうど手紙を読み終えた頃に彼が私の自室にやって来た。
手紙の内容が内容なので一瞬体をこわばらせる。



「ああ、手紙を読んでいたんですか。邪魔をして申し訳ない」


「いえ、ちょうど読み終えたところなので問題ありません」


「なら、よかった」



チェスでもしませんか?と彼は机にチェス盤と駒を置く。
聞いておきながら道具を準備するなんて命令しているようなものだと思う。
私は彼とのチェスは嫌いではないので彼の誘いに応じた。



「今日は貴女のことを聞いてもいいでしょうか?」



チェス盤を挟んで彼はそう言った。
私たちはチェスをするとき何かしら雑談をする。
といっても彼が一方的に質問していることが多いのだが。



「ええ、構いませんよ」



駒を動かしながら答える。



「では、貴女の生まれについて教えていただけませんか」



その言葉に私はピタッと止まった。
そんな私に彼はなにか地雷を踏んでしまったかと怪訝そうに眉をひそめた。



「…聞きたいですか」


「貴女が話したくないと言うなら聞きませんが」



イコール聞きたい、と。
情報を漏らすのはマズイかと思うが、あと少しのことだ。
構わないだろう。



「では話させていただきます」



静かに物語を綴るように口を開く。



「私には、血の繋がった両親がいません」


「え?」


「私は孤児院で育ったんです」



彼は驚いて目を見開いた。



「といっても孤児院にいたのは9歳までです。10歳になったとき、といっても私が院に来た日が誕生日なので正確に10歳と言えるかわかりませんが、私は今の義父に引き取られました」



駒を、動かす。
話しながらでもチェスから気を抜いたりはしない。



「義父は厳しい人です。でも私のことを大切にしてくれました。とても感謝してます」



この言葉に嘘はない。
私が義父を嫌っているならスパイなんて当の昔にやめている。
私は仕事に尽くすことが義父への一番の恩返しだと思っているのだ。



「すみません。紅茶を入れるのを忘れていました。今から入れてきますね」



これ以上は余計なことを話してしまいそうで席をたった。
彼も紅茶だけは私に入れさせるのであっさりと許可が出た。

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