翌日、彼は仕事が休みで家にいた。
そういう場合、彼は私を呼んで雑談をしたり、チェスをしたりして休日を楽しむ。
だけど昨日の今日でそんなことができるわけがない。
だからか、彼は読書に興じ、私は邸内の雑用を行っていた。



「彩月さん?」



ふと名前を呼ばれた方を向くとそこには不思議そうな顔をした彼の妹、美幸ちゃんがいた。
彼女は高校2年生で何故ここにいるのかと思ったが今日は日曜日だった。
いつも彼の休みは平日にあるから変な感じがする。

私が彼女を『美幸ちゃん』と呼ぶのは彼と同様、命令されたからだ。
プラス、敬語もなしと言われている。
なんでも彼女は姉がほしかったらしく、私にそれを望んだ。
姉は妹のことを様をつけて呼ばないし、敬語も使わない。
だから、と私は命令された。
そして彼女は私を姉の様に慕ってくれているのだ。
私がスパイだとも知らずに。



「今日はお兄ちゃんと一緒じゃないの?」


「うん。比呂士さんは読書したいらしいから」



一応事実を述べる。
理由は違うかもしれないが彼は私に『今日は読書をしたいから呼ぶまで部屋に来なくていい』と言ったのだ。
だが彼女はあまり納得していないらしい。
少し考える素振りを見せると、私を見た。



「ねえ彩月さん、あたしの部屋で喋ろ!!」


「…うん、いいよ」



出来れば雑用を終わらせてしまいたかったが一応主の妹の頼みだ。
断れまい。

私は彼女の後ろを大人しくついていった。









部屋についてソファーに座る。



「で、昨日お兄ちゃんと何があったの?」


「…は?」



彼女はいきなり質問を投げ掛けた。



「だって暇さえあれば彩月さんに構ってたお兄ちゃんが休みの日に読書したいなんておかしいじゃん。何かあったんでしょ?」



彼女は、鋭い。


兄妹だからか。

それとも女の勘?



「昨日ね、比呂士さんと喧嘩したの」



―――――
――――――――――



「そうだったんだ」



彼女は何か思うところでもあるのか、あーだのうーだの唸っている。

言い逃れはできないと思い、すべて洗いざらい話した。
彼女は静かにまっすぐに私の顔を見て話を聞いてくれた。



「じゃあ、あたしが何とかしてあげる!!」


「は、」


「大船に乗ったつもりでいて、彩月さん!!」



何かろくでもないことを考えている気がする。






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