〜柳生side〜




「私は、どうすればいいのですか…」



彼女はそう言って私の腕の中で泣き崩れた。
私の服にしがみつく彼女はとても弱々しく、いつものあの気品は見られなくて、ただの小さな女性だった。

私はさらに強く彼女を抱きしめた。
すると彼女はさらに大声をあげて泣いた。

















あれから、彼女を落ち着けるためにも、また体裁を整えるためにも彼女を彼女の部屋に隔離した。
逃げる気はなさそうだったが一応手錠をし、足枷をした。



「すこししたら戻ります」



そう言って部屋をでた。
そして使用人たちの集まる大広間に向かう。
その間、先程のことについて考えた。

私が受け止めた彼女の拳は軽かった。
戦闘のプロであるはずの彼女の拳は素人の私が易々と受け止められるほど弱かったのだ。
そして、それ以前に彼女は刃物や銃などの武器を使わなかった。
私を本当に殺したいのなら何かしらの武器を使うはずなのに。


そこで私は確信した。


彼女が私に向けてくれた好意は本物だ。
だから私を殺すか生かすか、言ってしまえば義父をとるか私をとるかで悩み、武器を使うに至らなかったのだろう。



「お兄ちゃん…」



思考を巡らせていると妹に声をかけられた。
いつのまにか大広間の前まで来ていたらしい。

一回、深呼吸をする。

私の意思はもう決まっている。
あとは、それに協力してもらえるように彼らに頼み込むだけ。

私は大広間の扉を開けた。



「みなさんに、お話があります」












―――――

――――――――――



「彩月」



大広間から戻り彼女の部屋に行くと、彼女は何をするでもなく大人しくベッドに腰かけて壁を見つめていた。
そして部屋に入ってきた私を一瞥すると口を開いた。



「なぜ、私を殺さない」


「私は貴様の敵だ」


「しかも、貴様を殺そうとした」



彼女の口から紡がれる言葉は冷たく、なんの感情も感じられなかった。



「貴女を愛しているからですと言ったでしょう」



それでも私はへこむわけでもなく、淡々と切り返した。
すると、彼女はそれを鼻で笑った。



「自分を殺そうとした奴を愛してる?ハッ、馬鹿か貴様は。私の行動が演技だとも―――――」


「貴女が私を殺そうとしていることは前から知っていました」


「っ!?」



彼女の目が見開かれ、黒真珠のような美しい瞳が揺れた。



「私は貴女が敵だと知っていてそばに置いていたんです」


「敵だと知っていても一緒にいたかった」


「貴女を愛しているんです、彩月」



彼女の唇がわなわなと震える。
膝の腕で両手をぎゅっと握りしめている。
それがまた自分の弱味を見せないように強がっているように見えて、護りたいと思った。



「貴女を幸せにします。彩月」



そしてそっと口付けた。







せめてキスを終えるまで
(もう少しだけ待っていてください)

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