「お嬢ちゃん、今ひとり?」
「え?」

あたしはそのときひとりで川で遊んでいた。

「うん、そうだよ。お兄さんは?」
「たくさん友達いるよ。ほら」

その人は自分の背中を指した。そこには4人程男の人がいたのを覚えている。

「ねえ、お嬢ちゃん。お兄ちゃんたちと遊んでくれる?」
「え…」

その人たちは意地悪く笑っていた。そのときは背筋がゾッとした。

「あ、あたしもう帰らないと怒られちゃう…」
「そんなこといわないでさあ」

がしっと腕を捕まれる。あたしはこのとき8歳くらい。年上の男に敵うわけなかった。

「やだ、離して!」
「可哀想だから離してやれよ」
「それもそうだな」
「うわっ」

手を離され、背を押され、あたしはそのまま川に突っ込んだ。

「げほっ…助け、て…」

着衣水泳なんて出来なかった。そもそも泳ぐこともまだ上手にできない年だった。

「俺らも川入るか?」
「だな。放置して死なれても困る―」
「お前ら何やってんだあああ!」
「っ!?何だ!」

あんまり覚えてないけど、このときひとりの男の人が叫びながら走ってきた。そして男たちを殴り飛ばすとあたしを川から引き上げてくれたのだ。

「おい、チビ。大丈夫か」
「けほっ…うえ…」
「よしよし、怖かったな。もう大丈夫だから」

その人は泣くあたしの頭を撫でてにこりと笑った。そして自分の上着をあたしにかけてくれて、あたしを背後に隠すようにして立ち上がった。

「おい、お前らこの辺りで暴れてるバスラオだろ。ポケモン同士でやりあうならと思って放っておいたが、さすがに人間のしかもガキに手を出したのは黙ってられねえな」
「な、そういうテメエは何なんだよ!」

その人がバキバキと骨を鳴らすと男の人たちはひるんでいた。あたしはこの人は怖くなかった。

「俺か?俺はこの辺りをしめてるチョロネコだ。俺に喧嘩売るか?あ?」
「っ逃げるぞ」
「どっか行けバーカ」

その人はべえーと舌を出して追い払った。それでまたあたしの方を向いてしゃがんだ。

「よっしゃ。悪いやつらはどっか行ったから帰るか」
「…………うん」
「ほら、抱っこしてやるからおいで」

8歳で誰かに抱き上げられるなんて少し恥ずかしいことだ。だけどあたしはまだ少し恐怖が残っていて震える手でその人の服をつかんだ。

「俺、お前の家知らないから道案内頼むな」
「うん」

その時の笑った顔は太陽みたいで今も強く印象に残っている。



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