かさかさ、かさり。
寝床に静かな音が響いて、俺は目を開けた。

「あら、起きたの」
「あ…?」

誰の声だと目を擦りながら起き上がる。すると少し離れたところの岩にエリサが座って何かを描いていた。

「またお前か。いつの間に来たんだ」
「少し前よ。呼んでも出てこないから勝手に入ってきたの。あと、お土産」
「あ?なんだ、これ」

四角い小さな三つの箱を彼女は俺に渡した。それぞれ青、緑、グレーの紙でラッピングされてある。「灰のはグレーの箱よ」とエリサがいうから俺はそのラッピングを乱雑に破いた。そして箱を開けると見知らぬ機械が入っていた。

「なんだ、これは」
「ライブキャスター。連絡が取り合える機械よ」
「…聞いたことはあるな。だが、なぜ俺に?」
「この間ここに来たら貴方いなかったのよ。今度からそんな無駄足踏みたくないし、それにこんな金、いらない」

そのときエリサは顔を歪めた。それは何かを憎んでいるようで。俺がその表情に怯んでいると彼女は「青はコバルオン、緑はビリジオンにあげてちょうだい。番号の登録はこっちでやってあるから」と言った。俺はその声でふと我に帰り、エリサを問い詰めた。

「金がいらないって何だ」
「……失言だったわ。それに貴方には関係ない」
「ああ、関係ない。だけど気になるから話せ」

そう言ってエリサを見据えればエリサは少し黙った後、うつむいて話し出した。

「私、家出したのよ」
「は?」
「私の家、ホウエンにある名家でね。私はそんな家が嫌で飛び出したの。私はトレーナーになりたかった。ポケモンバトルして、仲間を捕まえて、地方を回りたかった。だけどそんなの両親が許すわけなかった」

エリサはぎゅっと拳を握った。俺はただ何を言わずに聞いていた。

「だから、家出しようとしたの。でも一人じゃできるわけなかった。沢山の使用人が家にはいたからね。それでも私は逃げ出したかった。そうしたら妹が手伝ってくれた」
「……………」
「妹はすごく優しい子なの。頭はあまり良くなかったけど。でも自慢の妹だった。あの子も私を慕ってくれてて、喜んで手を貸すと言ってくれた。そのとき、あの子が何を言ったと思う?」

エリサはゆっくり顔をあげた。俺は、答えない。彼女は静かに涙を流した。

「『あたし、ずっと跡取りになりたかったの。そのためにはお姉ちゃんのこと邪魔だったからちょうどいいや』って!そんなの嘘なのよ!あの子は私が跡継ぎの事で親ともめる度に怖がってた!あの子だって本当はあんな家………出たがってた…」
「エリサ…」

エリサはいきなり大声をあげたかと思うと、最後は聞き取れないほど小さく消え入りそうな声だった。俺はいたたまれなくて、ついエリサを抱き寄せた。するとエリサは俺の服をつかんで続けた。

「旅を終えたら戻ってくるって言ったらね、あの子、『だから邪魔なの。帰ってこないで』って言って泣いてた。それで私に札束を二つ渡したの」
「それが、いらない金か」

尋ねるとエリサは小さく頷いた。

「何で私はあの子を捨てたんだろ…」

俺が体を離して目線を合わせるとエリサは虚ろな目で涙を流していた。

「……泣くな」

俺は力強く言い放った。

「もう泣くな。ただお前が泣いても解決はしない」
「なら、どうしろと。こんなときくらい泣かせてよ」
「…今は好きなだけ泣け。だが、落ち着いたらもう泣くな。妹と一緒に家を出たいならホウエンに戻ってそいつの手をとれ。今のお前には仲間もいる。実力もある。だから柄にもなくくよくよするな、小娘」
「………だからエリサって言ったじゃない」

にやりと笑ってやれば、彼女も何ながら同じような笑みを浮かべた。

「じゃあ話もしたことだし、このお金、もらってちょうだい?」
「は?」

さっと気持ちを切り替えたかと思ったらエリサは鞄から袋を取り出した。金が入っているのだろう。

「なんでそんな流れになった」
「あら、そういう流れじゃないの?」

にこりと笑うエリサはふてぶてしい。でも、やっぱりこっちの方がしっくりくる。

「なら、ありがたく頂く。着物でも新調させていただこうかね」
「そうしてちょうだい」

ふふ、とエリサは笑った。俺もつい笑みがこぼれる。そのとき、パラ、と砂が落ちてきた。

「あ…?……ぅぐっ!?」

なんだと思って上を見上げた途端、腹部に強い衝撃が走った。そして体が吹っ飛ぶ。何事だと思ってエリサを見れば彼女は両手を伸ばしていた。また、ぱらりと砂が落ちる。エリサの、意思がわかった。

「エリサ!」

咄嗟に体制を整えて手を伸ばす。しかし。

「灰!」

彼女は俺を睨み付けて来るな、と言っている。

しるか、貴様の事情なんか。俺を突き飛ばしたこと、あとで散々なじってやる。そもそも俺はポケモンだ。人間の小娘より何倍も頑丈なんだよ。

「エリサ!」
「っ真貴、破壊光線!」
「なっ」

彼女はクチートを出して俺に技を放った。間一髪で避けたものの、もう、間に合わない。

「待て、エリサ!」

手を伸ばす。エリサは苦しそうに顔を歪める。地が揺れる。ドン、と大きな音をたてて岩が落ちて俺たちを阻んだ。

「う、あああああああああ!!!」

続けてドカンドカン、と大きな音が洞窟内に響き渡った。俺の足元には二つの箱と、一つの袋。そして所々破れた画用紙が散らばっていた。



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