エリサがいなくなってから半年程経った。
俺はあの時から毎日毎日洞窟の中を回っていた。どこかにエリサはいないか、ザングースはいないか、キリキザンはいないか。一人で朝から晩まで探し回った。でも、一ヶ月くらいしてやめた。見つかるわけないなんてとっくの昔に分かっていたことだ。
それでも俺はエリサが描いてくれた絵を懐に入れたまに洞窟内を歩き回った。そしていつも道を閉ざす岩の前に座り込むのだ。
「なあ、エリサ。今どこにいる」
彼女の前での威勢のよさなんてない。ただ弱々しい声でいつもそこに向かって話しかけるのだ。
「お前が来ないと静かすぎるんだよ。早く顔を出せ」
「まだリベンジだってしていない。言っておくがあの時はなめていただけだ。俺はまだお前らには負けん」
「ライブキャスターだって繋がらん。ちゃんと電源入れておけ。お前は何のために俺らにこんな機械買ってきたんだ」
「お前が早く顔出さんと本当に金使いきるぞ。今なら服買ったくらいだからまだ余ってる」
女々しい。女々しい女々しい女々しい!馬鹿俺は!
そんな風に自分を叱咤するが言葉は止まらない。情けないくらい震えた声でめそめそ喋り続ける。
「………………」
返事はない。そんなことは知ってる。でも、それが悲しくて。俺はそんな気持ちに気づかない振りをして立ち上がる。こんなことをしてもただネガティブな方向に走っていくだけだ。
(ビリジオンのところにでも行くか)
電話を掛けようとライブキャスターを取り出して、やめる。どうせなら住み処の前で電話を掛け、切れた瞬間お邪魔をするというゲリラ訪問をしよう。なに、ちょっとしたサプライズだ。驚いてあきれるビリジオンの顔を想像すれば少し頬が緩んだ。そのとき。
「なんだ、これ」
邪魔な岩の影に何かが見える。こんなものあったか?と疑問に思ってしゃがんで、理解した。
「…そりゃあ連絡つかないわな」
そこにあったのはエリサのライブキャスター…だったもの。もうぺしゃんこで画面は割れていた。それでもエリサの物だと分かるのはシルバーの鍵のストラップがついていたから。これは汚れているだけで多少の傷がついていただけだからライブキャスターから外して懐に入れた。
「なんで俺はこれに一ヶ月気づかなかったかな」
はあ、と息をついて目を閉じる。
(灰!)
頭に浮かぶのは俺を突き放して叫んだ彼女。
(エリサ)
俺は彼女の手を掴めなかった。
「エリサ」
目を開け、洞窟を出る。久々の日差しが目に痛い。頬に伝ったものはその日差しのせいで気がつかない振りをして俺は歩き出した。
×:×
(←)