「久しぶり」

背後から声をかけられ、振り返るとエリサがいた。

「ああ、久しぶりだな」

初めてエリサが現れて二週間、再び彼女はここを訪れた。

「またバトルしてくれるかしら」
「嫌だと言ってもやるんだろうが」

そう悪態をつけば彼女は意地悪く笑う。

『言っておくが負けるつもりは更々無いからな』

俺はため息をつきながら擬人化した。実は密かに楽しみにしていたなんてことは言ってやらずに。



***



『やはり俺の勝ちだ』

以前の5匹は確かに力はついたものの、まだ俺に勝つには程遠かった。エリサはクチートをボールに戻す。しかし、まだ彼女は笑っていた。

「まだよ」

そして6つ目のボールを手に取る。そのボールはガタガタと激しく揺れていた。

「やっと出番よ、刃」

そう囁いてボールを投げる。出てきたのは俺を鋭く睨み付けるキリキザンだった。

『この間の奴か』

まだ進化前だったのに戦いたがっていた奴がいたのを思い出す。

『強くなったな』

それは見ればわかる。キリキザンの気迫といい俺に対して物怖じしない態度といいその辺にいる奴等とは違う。きっと相当な特訓でもしたに違いない。

「行くわよ」
『いつでも来い』
「…刃、アイアンヘッド!」

刃と呼ばれたキリキザンが勢いよく地面を蹴り俺に向かってくる。しかし。

『遅い』

ドン、と地面を揺らしてやればキリキザンの体制は崩れる。こいつもまだだったか。そう少し落胆しながらキリキザンの元へ走り、聖なる剣を決める。その時、エリサが笑ったのが見えた。

「刃、メタルバースト!」
『なっ』

まさか、耐えるわけがない。驚いてキリキザンを見るとそいつが気合いの襷を持っているのに気づいた。

『ぐっ…』

思いきり技を食らい、足をふらつかせながら距離を取る。

『まさか、そんな技を使ってくるとはな』
「がむしゃらに戦ってちゃ貴方には勝てないもの」
『そうか』

軽く頬が緩んだ。楽しい。すごく楽しいのだ。まだ始まって間もなく、しかしどちらももう倒れる寸前。こんなに早く終わってしまうのはつまらない。だけど。すう、と深く息を吸う。

『次で終わる』
「それはこっちの台詞よ」

互いに笑う。俺はキリキザンに向かって構えた。

『っらあ!』

声を張り上げ放つのはインファイト。最後くらい全力で叩き潰す。そんな俺とは違い、エリサは冷静だった。

「不意打ち!」

悪タイプの技なら耐えれる。その考えが甘かった。

『……負けない』

そうボソッと吐き捨ててキリキザンが思いっきり殴ってきた。そしてその威力は桁違いのものだった。

『うぐ…』

吹っ飛ばされ、俺は少し離れた所に転がった。起き上がる気力はない。

「私の勝ちね」
「………ああ」

とりあえず服で肌に直接地面が触らないようにと考え擬人化し、大の字に寝転がる。エリサは刃をボールに戻した。

「捕まえたいなら少し待ってくれ。落ち着いたら原型に戻る」

うあー、とだらしない声をあげるとエリサは首を横に振った。

「貴方を捕まえるつもりはないわ」
「………は?」
「私はただ単にあなたとバトルがしたかっただけで捕まえるつもりは全くないの」
「…なんだそりゃあ」

はあ〜と息をつくとエリサは嬉しそうに笑った。

「その代わり、貴方に名前をつけさせてちょうだい。いつまでも貴方なんて呼び方じゃ物悲しいし」
「好きにしろ」
「じゃあ勝手に呼ばせてもらうわ、灰」
「灰、ねえ……まあ、ありがたく受け取っておく」
「ええ、そうしてちょうだい」

名前を貰えたのは思いの外嬉しくて、俺が口を開けて大きく笑えば、エリサは小さく上品に笑った。



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