「小暮、いる?」
「……ああ、リノンか」

擬人化のまま寝ているとリノンが現れた。寝起きのため起き上がれず、目を擦りながら返事をした。

「相変わらずだらけれるのね」
「お前の来るタイミングが悪いんだよ。いつも寝ている訳じゃない」

そういいつつ、あくび混じりだったため説得力はゼロ。リノンは苦笑した。

「まあ、それは置いておいて。久々にバトルでもしない?」

リノンの申し出に俺は目を細めて彼女を見た。それがどうしてもエリサの影と重なる。どこか似ているのだ、リノンとエリサは。

「いや、今日はいい」

バトルだなんて気分にはなれなくて起き上がりながら返事をした。するとリノンはわかっていたかのように息をついてその辺の岩に腰を下ろした。そして違う話題を俺に振った。

「ねえ、あたしが初めてここに来たときの事覚える?」
「……ああ」

二年ほど前、ここにまだ少し幼かったリノンは姿を表した。

「蒼刃を潰したと聞いたときは焦ったな」
「人聞きの悪いこと言わないで。潰したなんて言った覚えはないわ」
「言った事は変わらんだろう」

にやりと笑ってやるとリノンは呆れたように笑った。

「確かに蒼刃は倒したわ。でもそうしないと貴方と千里に会えないっていうのよ?」
「別に会う必要はないだろ」
「まあね。でも見てみたかったのよ。伝説の聖剣士だもの」

リノンが少し遠くを見て笑う。きっとあのときの事を思い出しているのだろう。

「俺等を全員倒したかと思ったら、全員集めて。何事かと思ったぞ」

そう。リノンは俺を倒して少しした後、ここに蒼刃と千里を呼んだのだ。というよりは無理矢理つれてきたらしい。千里はそう言っていた。

「俺等を捕まえて名を寄越して。こき使うのかと思えば野生に放置して。訳がわからん」

今、事実上俺達聖剣士はリノンの手持ちになる。しかしご覧の通り俺達は野生に放置されているのだ。普通、そんなことはあり得ない。

「言ったでしょう。あたしはイッシュ地方で何かあったとき、貴方達に手を貸してもらいたい。だけどその時に貴方達が誰かに捕らえられていては困るの。だから捕まえた。名前をつけたのは種族名で呼ぶのは寂しいから」
「あーはいはいはい。長ったらしい説明をありがとうございます」
「……聞く気ないでしょう」

リノンの指摘も知らんふり。リノンは何か言いたそうだったが、そのまま岩から立った。

「まあ、いいわ。何かあったらまた来るから」
「今日は用事なかっただろう」
「バトルしたかったけど貴方が断ったからなくなったわね」
「悪かった」

もう行くわ、と彼女は相棒のメブキジカを出し、そいつに股がった。洞窟の中で走り回るのは極力控えてほしいのだが。

「あと、ひとつだけいいかしら」
「なんだ」
「そんな分かりやすく黄昏に更けるの、似合わないわよ」

じゃあ今度こそ、と行ってリノンは洞窟から出ていった。

「俺の自由だろ、そんなもの」

なんだか見破られていたのが悔しくて俺は頭をかきながら洞窟の更に奥、俺の寝床に戻る。今はその辺で適当に寝ていたのだ。だから体の節々が痛い。

「エリサ…」

所謂ベッドの代わりとなるもののところに乱雑に置いてある絵を手に取る。エリサが描いた俺の絵。もうそれはひどく日焼けしていた。外出するときは肌身離さず持っていたからだろうか。

「どこにいるんだ」

俺の問はただ岩壁に吸い込まれただけだった。

「また、呼んでくれよ…!」

誰も知らない、俺の名前。彼女からもらった『灰』という名。

「エリサ!」

ドンッ、と壁を殴る。固い岩の壁は欠片がぱらぱらと落ちてくるだけで、ただ俺の手に痛みがあっただけだった。



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