「柳生、かき氷買おうかき氷!」
「分かりましたから落ち着いてください」

年に一回の夏祭り。あたしはテンションが上がってて、柳生の手を引けば柳生は眉を下げて笑った。

「人とぶつかりますから…」
「うわ、すみません!」

言葉が被る。柳生が言ったことは聞こえたので恐る恐る柳生を見ればそれ見たことかと呆れた顔をしていた。

「貴女はただでさえそそっかしいんですから気を付けてください」
「う…すみません」

しゅんと顔を伏せると柳生はくすりと笑った。

「ほら、かき氷買うんでしょう」

そう言って優しくあたしの手を引く。そしてあたしが人にぶつからないように誘導してくれる。あ、今更だけど浴衣かっこいい。背中大きいな。

「すみません、かき氷ふたつ」

柳生は買ったかき氷にそれぞれレモンとブルーハワイをかけ、レモンをあたしにくれた。

「ありがと。ちょっとお金出すから待ってて」
「いえ、私が出しますよ」
「え、でも」
「ここは私の顔をたてると思ってください」

そう言って柳生は笑う。くそう、そんなこと言われたら出すに出せないじゃんか。あたしがむくれても柳生は涼しい顔だ。

「……じゃあブルーハワイ、一口ちょうだい」
「ええ、最初からそのつもりです」

レモンもブルーハワイも好きでしたよね、なんて柳生は続けた。なんでこいつは滅多に食べないかき氷の好みなんて覚えてるんだか。

「…柳生のばか」
「悔しいのは分かりますが貶めるのはやめてください。相手が貴女だとさすがに傷つきます」
「……ばかばかばーか」

べえ、と舌を出してやれば柳生は眉を下げる。なんか、その顔が物悲しそうだったので「ごめん」と言えば柳生はあたしの頭を撫でた。

「ちょ、髪崩れる!」
「仕返しです」
「これっぽっちも傷ついてないでしょ!」

今の柳生の顔は素晴らしい笑顔だ。さっきのが演技だったという最大の証拠である。

「本当に紳士か」
「そう言われるのは心外ですね」
「うるさい」

鏡なしで手探りで髪を直していると柳生が前髪を手櫛でといてくれる。

「はい、直りましたよ」
「…ありがと」
「鏡みますか?」
「大丈夫」

…やっぱり紳士だ、ちょっと悪戯っぽいけど。まあそれは仁王くんの影響ということにしてやる。
そのとき、ドーンと大きな音がした。思わず空を見上げればきれいに咲く大きな花火。

「きれい…」
「ええ、とても」

柳生の手を握れば柳生も握り返してきた。

「…貴女の方が綺麗ですよ」
「は?」
「たまにはこんなキザな台詞を言ってみるのもありかと思いまして」

どうですか、なんて柳生は笑う。あんまりらしくはない台詞。でも。

「柳生がいうと胡散臭いよ」

ときめくでしょ、ばーか。

柳生にはわかったのか、彼は楽しそうに笑った。





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下らないやり取りをするバカップルが書きたかった。あと夏祭りネタも。



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