「……全然折れないんだけど」
「貸しんしゃい。……ほれ」

ここは私の家の道場。そのど真ん中にあたしたちは座り、雅治はべき、と竹刀の竹を折ってそれを私に差し出した。

「なんでそんな簡単に折れるんだし」
「鍛えとるからのー」
「あたしに力ないからか?みんな折れてたのに…」
「無視すんな」

ぺしりと雅治に頭をはたかれる。痛い、と不満の声を漏らせばスルーされた。仕返しかい。

「つーかなんで俺がこんな朝から竹刀折らないかんのじゃ」
「雅治があたしの幼馴染みでー使えなくなった竹刀の竹は折って捨てるんだけどあたしは何故か折れなくてー雅治が今日珍しく暇だったからー」
「間延びウザいなり」
「ごめん、わざと」
「……帰っていいかの?」
「だめ」

はあ、と雅治は項垂れた。仕方ないじゃん。あたしと幼馴染みである時点で諦めろ。あたしは使えるものは使う人間なのだフハハハハ。

「心の声だだ漏れぜよ」
「え、やっべ、ただの厨二病患者じゃん」

思わず口を押さえる。その間も雅治はべきりべきりと竹を折っていた。

「なあ、これどれだけやるん?」
「ここにある解体してある竹刀全部」
「もう学校持ってって手伝ってもらいんしゃい」
「残念ながら私の竹刀入れには入りきらないんだな、こんな量」

ざまみそーと棒読みで言えば雅治の眉間のシワが深くなった。

「まああたしも手伝ってあげるから」
「元々なまえのじゃからな?俺が手伝いに来ただけじゃからな?」
「細かいことは気にするな」

ぐむむ、と変に力をいれて竹刀を折ろうと試みる。しかし竹は曲がるだけで中々折れてくれない。

「だめだ、やっぱ無理」
「諦めたらそこで試合終了じゃ」
「終了して結構。雅治がやってくれるから大丈夫☆」
「可愛いこぶんな」
「ちぇ」

つまんないの、とぶーたれたら雅治はそっちの方がまだマシ、何て言ってきた。マシってなんだよマシって。

「あ」
「んー何」
「なまえ、頭に竹の破片ついとる」
「え、嘘。……とれた?」
「いや、もっと前の方」
「…………どう?」
「とれとらん。鏡見てきんしゃい」
「……伊藤くんはとってくれたよ」
「は?」

雅治の顔には誰ソイツ、と書いてあった。

「あー雅治は学校違うから知らないか。すっごい優男で気が利く人でね、この前の大掃除の時…」


『みょうじ、頭にごみついてる』
『え、マジで?……とれた』
『ううん、もうちょっと上』
『……これは?』
『……………………はい、とれた』
『おー、わざわざありがとね』


「なんてことがあった」
「……………」
「ん?あ、ありがとう」

雅治はむすっと拗ねたように破片をとってくれた。礼を述べればふい、とそっぽを向かれてしまう。

「んー、そろそろいいよ。あとは学校で部活の子に手伝ってもらうから」
「……いい、やる」
「え、ホント?」
「おん」
「やった。ありがとね、雅治」

にぱーと笑ってお礼を言えば雅治はちょっと顔を赤くしてうつ向いた。ダメだねえ、詐欺師なんて呼ばれてる人がそんな分かりやすくしちゃ。





(伊藤ー)
(おーみょうじじゃん)
(作戦大成功であります!)
(いい案だったろ?)
(うん。あ、あと伊藤が優男で気が利くって嘘言っといた)
(いやいや、それ本当のことじゃん。俺マジでいいやつ)
(あと今日の帰り雅治が因縁つけに来ると思うよ)
(…………え、マジで?)
(あいつヘタレのくせに嫉妬深いからねえ。あ、適当にあしらって大丈夫だから)
(みょうじは助けてくれねえの?つかお前さっさとこく…)
(あたしの恋を応援すると誰よりも早く言ってくれたのは誰だったかなー)
(さーせんした)
((告る勇気があったらとっくにしてるっつーの!))



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