「はあ?ニキビぃ?」
「うん…」

休み時間の時、沈んでいたあたしに仁王は心配して声を掛けてくれた。だからその理由を話したら仁王はこんな酷いリアクションをとったのだ。

「ほら、ここ」

顔にできたニキビを指す。

「まだ小さいじゃろ」
「小さくても嫌なの」

はあ、とため息をついて机に突っ伏せば仁王はぽんぽんとあたしの頭を撫でた。

「つーか嫌ならマスクかなんかすればいいじゃろ」
「それもやだ」
「なんでじゃ」
「だって今日テニス部休みでしょ?」
「……ああ、そういうこと」

仁王はその一言で納得したようだった。

テニス部が休みの日、あたしは彼氏である柳生と一緒に帰る。家の方面が一緒なのだが、流石にいつも部活が終わるまで待ってはいられないのだ。だからあたしは柳生と一緒に帰れる日をすごく楽しみにしているのだ。…それなのに。

「…こんな顔見せたくない」
「そんな重く考えんでも」
「いっそのこと潰してやろうか」
「痕残るから止めんしゃい」

ぺしりと仁王に手をはたかれる。うう、とうめき声を洩らすと仁王は仕方ないというように口を開いた。

「みょうじ、知らんか?」
「え、何を?」



***



「すみません、みょうじさん。お待たせしました」
「ううん。こっちも今終わったばっか」
「そうでしたか」

教室の自分の席で待っていたため、スカートの襞はぐちゃぐちゃだった。それを直すのを柳生は快く待っていてくれて、直し終わると「では帰りましょう」と笑った。


「今日ね、丸井が数学の時間にね」
「ええ」

「仁王がそこでイタズラしてさあ」
「全く、仁王くんは…」

「明日家庭科でマフィン作るんだって。上手くできたら持っていくね」
「楽しみにしています」


できるだけ顔をあげないようにして、他愛もない話をしながら帰路につく。柳生の顔も見たいけど今は無理。

「みょうじさん」
「ん、なに?」

あたしが今日あったことを喋って柳生が相づちをうつ。これがいつもだった。だから柳生からあたしの名前を読んだのは珍しいなあなんて呑気に考える。

「何かあったんですか?」
「へ、なんで?」
「今日は目も合わせてくれないでしょう」

ヤバイばれてる、と思わず顔を背ける。

「何か悩み事があるなら相談に乗りますよ」
「いや、大丈夫」
「それともやましいことがあるんですか」
「そういうわけじゃないんだけど…」

ちら、と柳生をみてみればすごく心配そうな顔をしていた。そこまで思ってくれるのは嬉しい反面、それほど大事じゃない分申し訳なくなってくる。どうしよう、と考えたとき思い浮かんだのは昼間の仁王の言葉。仁王の呆れたような口調はなぜかあたしの背中を押した。

「あのね…」
「はい」
「………ニキビ、できたの」
「はい?」

恥ずかしいけど顔をあげてそこを指す。柳生はきょとんとしていたが、あたしの悩みごとを理解するとくすりと笑った。

「私が貴女のことを思っているからですかね」

ごめんなさいね、と笑う柳生を見たら今までの憂鬱なんて全部吹き飛んでしまった。






『顎にできるニキビっちゅうのはな、』

『思われニキビって言って誰かに好かれとるって言うんよ』



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