椿は寝てしまった。
分かりにくいけど目の下に隈ができている。
椿は委員会、勉強にはすごい熱心でしかも家の道場で師範代をやっているらしい。
もちろん朝稽古も真田と一緒にやってるみたい。
そしてそれにプラスで女の子らしい恋愛の悩み。
元々睡眠時間は短かったみたいだし、体力的にも限界が来ていたのだろう。


ちら、とブン太がいた屋上の扉に目をやる。
少しだけ隙間が空いていて俺たちがいるのはその隙間からちょうど見える位置。

ケータイを取り出して仁王にメールを打つ。



『今ブン太帰ったよ。椿抱き締めたの見られたみたい』



送信完了の画面を確認してケータイを閉じる。
とりあえずケータイをポケットにしまって椿の体勢を直す。
ずっと正面から肩にもたれられてるとキツいしね。
よいしょ、なんてじじくさい掛け声とともに椿を抱き上げて壁際に運ぶ。
壁にもたれるように座って椿が倒れないように膝枕。
これじゃ倒れようがないでしょ。最初から寝てるんだし。

と、ここで仁王からメールが来た。



『後で詳しく聞かせんしゃい』



根掘り葉掘り聞いてこないってことはブン太が教室に帰ったらしい。
俺は了解と一言だけ返してケータイを閉じた。



「ごめんね、椿」



仁王と俺はグル。
ブン太をここに誘き寄せたのも俺たちの仕業。
実行犯は仁王だけど。
理由はまだ自分な気持ちをわかっていないブン太に自覚させるため。
無意識のうちに椿に付きまとってるみたいだけど、ブン太はどうでもいいと思っている奴には付きまとったりなんてしない。
それに気づかせるため。
言っとくけど俺は椿に恋愛感情なんてない。
綺麗だとは思うけどただそれだけ。
真田を通じて知り合った、いわば幼馴染みのようにしか思っていないのだ。

俺は椿には随分世話になったし、借もたくさんある。
だからこれはひとつの恩返し。
ちょっと乱暴な手回しだけどまあどうにかなるだろ。



「早くくっつけよ、お前ら」



さらさらの椿の長髪を撫でる。
椿は本当に疲れが溜まっていたのか熟睡していて、これくらいでは起きそうにはなかった。
二時限目が終わるまでは寝かしといてあげようかな。
多分、教室戻ったら超不機嫌なブン太もいるんだろうし体力があるに越したことはないよね。



「俺はお前の味方だから」



あんまり、無理はするなよ







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