『2時限目屋上に来てね★』



こんなメールが来たのは1時限目が始まる前。
差出人は、魔王またの名を暴君あるいは幸村精市。
わざわざ2時限目を選んだのはあいつのクラスの2時限目が科学で私のクラスの2時限目が古典だからに違いない。
別にメールを知らないふりをして真面目に2時限目を受けてもいいのだがそうすると後が面倒臭い。
運よく古典の授業は自習だったので仁王と丸井に「魔王に呼び出された」と言って教室を出た。
魔王という単語に仁王が御愁傷様と憐れみの表情を浮かべていた。





◆◆◆





「遅かったね」


「まだ授業が始まって5分も経っていないが?」



屋上のど真ん中に座っていた幸村の隣に腰を下ろす。
幸村は「俺休み時間からいたから」とケタケタと笑った。



「それで?」


「ん?」


「何の用だ」



早く帰らせろと急かせば幸村はあーと苦笑しながら気まずそうに口を開いた。



「大した用じゃないんだけどさー」


「なら呼ぶな」


「いや、最後まで聞いてよ。…ブン太とはどう?」



先日も聞いたばかりのその問いに眉を潜める。



「仁王の差し金か?」


「違う違う。まあ仁王からは一応聞いてるんだけどね」



告白する勇気ないんだって?



にっこりと核心をつくこいつにイラッときた。



「…ああ、そうだ。そんな勇気は持ち合わせていない」



やけくそになって答えれば幸村は吹き出した。
失礼な奴だ。



「笑うな」


「いや、だって椿が勇気ないとかあり得ないよね」


「何故」


「1年の時に校則違反の取締りしてて3年の先輩5、6人が反抗してきたのを一人で沈めたのって誰だったっけ?」


「…私だが」



2年も前の、しかもあまり思い出したくない過去をわざわざここで出されるとは思ってもみなかった。



「年上5、6人に突っかかる勇気があるならブン太に告白する勇気くらいあるだろ?」


「……………」


「まあそう言われても難しいだろうけどね」



返す言葉が見つからず、うつむいているとふわりと花の香りが香った。
ぬくもりを感じることからどうやら幸村に抱き締められているらしい。



「何のつもりだ」


「おまじない。椿とブン太がうまくいくように」



こんなまじないがあるか、とは思ったものの幸村のぬくもりは心地よくて安心しきってしまった。



「…ありがとう」



そう言ってこてん、と頭を幸村の肩にのせる。
なんだか、眠たい。



「どういたしまして」



幸村はとん、とん、と私の背中を一定のリズムで叩いた。
そのせいか急に睡魔が襲ってきて、私は幸村に身を預けた。





















「幸村くん…?椿…?」



私を呼びに来た赤髪にそれを見られていたとは知らずに。






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