「椿さんがいると仕事が早く進んで助かります」


「いや、柳生がしっかりしているからだろう」



テニス部レギュラーの柳生比呂士とその副部長の双子の姉真田椿はこの昼休みの廊下を仲良く歩いていた。
―――――風紀委員と書かれた腕章をつけて。


昼休みの校内見回りは二人一組として二組で行われていた。
そのうちの一組が柳生・椿のペアである。
二人の取り締まりは他の委員に比べて厳しい(勿論真田よりは緩い)ので二人が通る道にいる者は慌てて服装を正したり、没収対象の物品をしまったりしていた。
そのため全く違反者が捕まらないのである。
二人は自分たちが通りすぎた後に皆が服装を崩したりしていることは気づいていたが、そこを不意打ちするように違反者を捕まえることはしなかった。
多少の違反をしたい気持ちはわかるしそんなに厳しく取り締まっていてはこちらの身が持たないのだ。

そのため特に回りに注意も払わず談笑しながら歩いていると、ふと柳生が止まった。



「どうした?」


「あの、少しだけ待っていてもらえませんか」


「ああ、構わん」


「すみません。すぐに戻ってきますので」



柳生は申し訳なさそうに眉を下げ苦笑いをして人混みへと消えた。
彼の行き先は恐らく


(御手洗い、か)


生理現象なのだから仕方がないことだと思う。
だが、彼にとって理由が何であろうと女性を待たせるというのは自分のポリシーに反するのだろう。
だから先程のように気をつかう。


(確かに紳士だな)


彼の通り名を思い出し納得する。
そのとき、柳生が帰ってきた。



「お待たせしました」


「早かったな」


「女性を待たせるわけにはいきませんので」



柳生はにこりと微笑んで「では行きましょうか」とエスコートするように促した。
椿は軽く礼を言って歩き出す。



「そういえば…」


「なんだ?」


「丸井くんとはうまくいっていますか?」



柳生のその問いに椿の表情がこわばった。
歩き方も一瞬ぎこちなくなる。
思わず柳生を睨み付けると柳生は困ったように笑った。



「そんなに怖い顔をしないでください」


「……他人の顔を借りて探りを入れる奴を睨むなと?」


「………プリ」



柳生が―――いや、柳生の格好をした仁王が気まずそうに顔をそらした。
変装がばれるとは思わなかったのだろう。



「いつから気づいてたんですか」



周りに怪しまれないように柳生の声・口調を真似て尋ねてくる。



「最初からだ。御手洗いで入れ替わったんだろう」


「…当たりじゃ」



最初椿と見回りをしていたのは本物の柳生だ。
入れ替わったのは柳生が御手洗いに消えてから。
恐らく仁王に呼ばれてそれに気づき、御手洗いへと向かったのだろう。



「なんのつもりだったんだ」


「貴女と丸井くんがどうなっているか気になったんですよ」


「柳生の真似しなくてはいい。違和感がぬぐえん」


「……軽くへこむんじゃが」



暗に似ていないというと仁王が分かりやすくへこんだ。
実際は相当似ているのだが、椿が鋭すぎて通用しないのだ。



「話戻すがの、ブンちゃんとはどうよ」


「お前は一番近くで見ているだろう」


「あー、そうじゃのうて…」


「なんだ」


「自覚しとるんか聞こうと思ったんじゃが」


「自覚はしている」


「みたいじゃの」



仁王は苦笑した。
自分が出る幕はなかったみたいだ、と。
どうやら心配はなさそうだ。



「なら早く告りんしゃい」


「……無理だ」


「は?」



あまりにも弱気な声に仁王は思わず椿を見る。



「丸井の気持ちもわかっているがな、実行する勇気がないんだ。それに、私には今はこのままが一番いい」



明後日の方向を見ながら話す椿に仁王はやはり自分が動く羽目になりそうだと直感した。






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