「すーすー…」
「起きんしゃい」
「いたっ!」
朝、まだ誰もいない時間に登校してきて暇だから寝てたら誰かに叩き起こされました。文字通り頭叩かれました。地味に痛いんですけど。誰だよこんちくしょーと頭をあげたら「おはようさん」とすこし顔が赤い仁王がいた。あー、朝練頑張ったんだね。
「はよ。朝練お疲れ」
「おん。井上は朝からなに爆睡しとるんじゃ」
「いやね、今日は早く来すぎて暇だったんだよ。だから気持ちよく寝てたのに誰かさんが起こすからさあ…!」
怨念のこもった目線で睨んでやるが仁王は全くビビる様子はなくて「それは残念だったの」とニヤリと笑いながら白々しく言いやがった。バカー仁王のバカーそんな白髪禿げてしまえー!
「まあこれやるから怒りなさんな」
「んー?……って、これ期間限定イチゴ味ポッキーじゃん!」
「貰ったんじゃけど甘いのは好かん。じゃからやるぜよ」
「わーいわーい!仁王マジ神!」
うふふー、とあたしのテンションは一気にMAX。よし、さっきの呪詛は取り消してやろう。その銀髪を好きなだけ伸ばせ。
「もっと讃えんしゃい。それでそのカミサマからのお願いなんじゃけど」
「おう!何でも聞いてやる!」
「じゃあ今日の帰り、部活終わるの待っとってほしいんじゃけど」
「そんなのお安いご用さ!………って、え?」
あれ、何か物凄い面倒くさそうな頼み事が聞こえたよね?あれ、部活終わるまで?あれ、テニス部終わるの遅くね?…………え、なんで?
「了承したの」
「え、ちょ、待て待て待て待て」
「なんじゃ」
「いや、何で待たなきゃいけないんだし」
「井上に家の場所教えるためじゃ」
「やー、メールでいいじゃんかそれ」
「……家まで来たらポッキー大量にあるなり」
「待ちますいつまでも待たせていただきます」
こうしてお菓子LOVEの私はあっさりと仁王の作戦に嵌まったのでございます。
***
「………ねえ、仁王」
「なんじゃ」
「あたし、今日ほど世界が狭いって実感した日はないわ」
部活が終わってふらふらの仁王帰宅。もちろんマンションは一緒だから帰り道は一緒。マンションに着いてからどこの棟かなーって思ってたら、なんか一番見慣れた棟に入って、エレベーターじゃ一番見慣れた番号を押して、一番見慣れた廊下を歩いて、一番見慣れたドアを通り越して次のドアで仁王は止まったのだ。つまり、こいつの家は。
「あたしとお隣さんですね」
「……まじで」
「まじで」
ほら、と井上と書かれた表札を指す。仁王は「こんな漫画みたいな展開ってあるんじゃな」と呟いていた。
「うん、ならあたし一回家帰るわ」
「は?また来るんか?」
もう家の場所わかっただろ、と仁王は言いたいらしい。ちっちっち、私の用事はそこじゃないんだよ。
「ポッキー、ちゃんと準備しといてよね」
そして部屋着のジャージに着替えて再びに仁王お邪魔し、その時に一騒動起こるのだが、それはまた次と言うことで。
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