速報。アロエママに捕まりました。奥の部屋に呼び出されました。何となく話の予想はつきます。

「ミノリ、あんたチラーミィ持ってるんだってね」
「この前ライモンの遊園地に行ったときに捕まえました」
「なんであたしに黙ってたんだい?」
「だってママに話したら即刻ジムトレーナー就任じゃないですか」

そうなのだ。あたしは何故かよくママからジムトレーナーの勧誘を受けていたのだ。あたしはバトルは得意じゃないのに。たまたま誰かと珍しくバトルをしていたところをママは見ていたらしい。そしてママ曰く、才能があったのだとか。

「あたし、バトル得意じゃないし、好きじゃないから嫌だったんですよ。それに、花音も怪我してたし」
「今は治ったんだろう?」
「…まあ、ボチボチ」

ママはあたしの意見なんか聞くつもりはないらしい。あたしの腕の中にいる花音に目線を合わせて語りかけた。

「どうだい、花音。この子とバトルしたくないかい?」
「ラーミ!」

花音はニコニコと元気よく返事をした。あれ、あんた人間嫌いじゃなかったの?もしかしてあたしの検討違い?

「花音、バトルだよ?本当にいいの?」
「ラミ!」

花音はムスッとして分かってるよとでも言いたいのかあたしの腕をペシペシ叩いた。

「その子もやる気はあるようだし決定だね」
「…両親は何か言ってました?」
「二人とも大賛成だったよ。流石はあたしの親友たちさ!」
「はあ…」

そうだった。ママと仲のいい、しかもバトル好きの両親が反対するわけがなかった。

「安心しな。給料はちゃんと上げておくよ」

普段なら嬉しいそんな言葉でも、あたしはがっくりと肩を落とすことしかできなかった。



***



「っていうことがあったんですよ」
「それはそれは。お疲れさまです」

千里さんは苦笑した。あたしは今日もまた千里さんのお家にお邪魔している。今日はチーズケーキを持ってきた。千里さんがそれを美味しいといってくれるだけでも和む。

「それで、その子が以前おっしゃっていた子ですか?」
「はい。花音って言うんです。女の子ですよ」
「ラミ!」

花音はチーズケーキを頬張りながら笑った。可愛い。

「可愛らしいですね」
「ラミ?」
「ふふ。マスターのことが好きですか」
「ラーミ!」

千里さんが花音の頭を撫でる。花音は千里さんを威嚇することもなく、嬉しそうにしていた。よかったよかった。

「それにしても、ジムトレーナーになるのはそんなに嫌ですか?」

千里さんは花音を抱き上げながらいった。よっぽど気に入ったらしい。花音もなついているようだからなんだか微笑ましい画だ。

「嫌っていうかなんというか…。まず、私バトルが得意じゃないんですよ。バトルになると頭真っ白になっちゃって何言っていいか分からなくて」

あたしは別にバトルで負けるのは嫌じゃない。悔しいけれど経験になるからだ。あたしが嫌なのはポケモンがあたしの指示のせいでボロボロになってしまうこと。それこそ、経験を積んでどの場面でどのように対処すべきか学ばなければいけないから矛盾した話なのだが。でも怖いものは怖い。

「ジムには強いトレーナーがたくさん来ます。あたしはその人たちと戦ってこの子達を傷つけない自信がないんです」

あたしはうつむいた。自分の無力さが嫌だった。

「バトルとはそういうものでしょう」

千里さんの返答は穏やかな声だが冷たいものだった。だが、しかしと彼は続ける。

「確かにポケモンが傷つくことを嫌がっているならバトルはするべきではないと思います。でも、この子はあなたとバトルをしたいと言ったのでしょう?なら、いいじゃないですか」

思わず顔をあげると千里さんは微笑んだ。

「野生で育ったポケモンは皆戦うことを知っています。そしてそれによって自分が強くなれることも。それはこの子も同じでしょう。ねえ、花音?」
「ラミ!」
「ほら」

花音は千里さんから離れてあたしの首元に抱きついた。そして頬擦りをする。

「何事も機会があるなら挑戦してみるべきだと私は思います。あなたの場合、環境は最高じゃないですか」
「確かに、そうですけど…」

ジムだから強い相手がやって来る。設備も整っている。手持ちもやる気十分。こんな環境に文句のつけようもない。

「何事も前向きになってやってみてはいかがです?暗く考えるよりは得られるものが多いと思いますよ」
「…そうですよね」

やっぱり気は進まない。でもずっとそうしていたら何の為にもならないだろう。

「うん、頑張ってみます」
「はい、応援してますよ」

千里さんに相談してよかった。彼の言葉に背中を押してもらうことができた。あたしはありがとうございますと心の中で呟いた。



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