「ははは!まさか千里に女ができてるとはな!」
「…小暮、いい加減にしなさい」
「諦めろ、千里」
「………ハァ」

小暮さんと呼ばれた大爆笑をされた方、顔をひきつらせている千里さん、無表情で千里さんを宥める蒼刃さんという方、黙る私。この4人で千里さんの家の机を囲んで座っているのですが、物凄く居づらいです。今日は千里さんにお土産の代わりのクッキーを渡しに来ただけなのに…!

どうして私が今こんな状況下にいるかというと、遡ること数十分前。置いていこうとしたら拗ねて暴れまわった手持ちたちを連れて、完璧に頭にインプットした道を辿って千里さんの家についた。インターホンなんて物は付いてないので「千里さーん。いらっしゃいますかー?」とドアをノックして呼んだのだ。するとややあってドアが開いて、げっそりとしていかにも疲れていますという顔をした千里さんが立っていた。

「ああ、貴女でしたか。お久しぶりです」
「お久しぶりです。千里さん、大丈夫ですか?なんかやつれてますけど…」
「…今友人が遊びに来ているのですが3日もここに立て籠るものですから寝不足気味で」

道理で。きっと夜通し喋ったりしていたのだろう。あたしが妙に納得していると千里さんは「失礼」と言ってひとつ欠伸をした。

「ですから、せっかく来ていただいたのに申し訳ありませんが今日は引き返してもらえませんか?あれに捕まると大変ですから」
「今日は元々お土産の代わりを持ってきただけなんで大丈夫です。土産話は今度させてもらうので」
「お土産とはどこかに行かれたんですか?」
「はい。幼馴染みとライモンの遊園地に行ってきたんですよ。でもそこでちょっとあってお土産買い損ねちゃったんで、かわりにクッキー焼いてきました」
「ありがとうございます。遊園地は楽しかったですか?」
「はい、とっても。あと向こうで捕まえた子がいるので今度紹介しますね。朝荒れてたから今疲れて寝ちゃってるんです」
「楽しみにしていますね。…では、そろそろ」
「あ、長話しちゃってすみません。じゃあもう行きますね」
「ええ、またこん―」
「別に中に入ってもらえばいいだろう?」
「…小暮」

ニュッと千里さんの後ろに現れた小暮さんは千里さんの肩を組んだ。途端に千里さんの顔が物凄く嫌そうに歪む。

「門前払いは可哀想だろう」
「あなたに捕まるよりはよっぽどいいかと思いますが」
「友人に向かって失礼な」

そう言ったものの小暮さんはあまり気にしているわけではないようで、ガハガハといった感じで豪快に笑った。

「入りな。友の友のなら我らもまた友だ」

こうして私は小暮さんによって連れ込まれたのだ。千里さんには「すみません」と耳打ちをされた。この時に、千里さんの寝不足の原因はこの人だなと直感した。

こうして、冒頭に戻るのである。


***



「大体、私たちはあなたが思っているような関係もありません。ただの友人です」
「ここら一帯からほとんど出ないお前に新たな友人などできるか」
「彼女がこの辺りに木の実を取りに来ていたときにあったんですよ」

千里さんは苛立たしげに紅茶を飲む。小暮さんは今度はあたしの方を向いた。

「えーとお嬢さんは…」
「ミノリです」
「……………」
「ミノリ、お前は木の実採取が趣味なのか?」
「いえ。ただ、お菓子作りが好きでそれ用の木の実はよく取りにいきますが」
「ほーう…」

小暮さんはニタニタと笑う。千里さんは限度を超えたのかガチャンと派手な音を立ててカップを置いた。

「小暮、いい加減にしなさい!初対面の、しかも女性相手に失礼でしょう」
「相変わらず固いな、お前は」
「あなたが不躾すぎるんですよ」
「…二人とも、落ち着け」

今まで沈黙を貫き通していた蒼刃さんがぼそりと呟くと二人ともピタリと止まった。

「小暮、お前は千里の言う通り少し言い過ぎだ。相手は俺たちではないんだ。もう少し考えることをしろ。千里も俺らはいいとしてたの客人がいる前で怒鳴るのもどうだろうか?お前は落ち着いて考えるということをしろ」
「うっ…」
「…すみません」
「見苦しいところを見せて申し訳ない。友人二人に代わって詫びさせて頂こう」
「え、あの、全然気にしてませんよ?大丈夫です。ただ…」

ちらりと、壁にかかっている時計を見る。蒼刃さんはどうした、と首をかしげた。

「この後用事があるのでそろそろ帰りたいなーと…」
「よし、そういうことなら行こう。またな、千里」
「待ちなさい小暮!」
「俺も失礼する」

叫ぶ千里さんを無視しながら小暮さんはあたしの手を引いて外に出た。何気に蒼刃さんもいる。

「はあ。今日は悪かったな」
「いえ、楽しかったですよ」
「詫びと言ってはなんだが、ライブキャスターを貸してくれないか?」
「?どうぞ」

何の疑いもなく差し出せば小暮さんはがちゃがちゃとあたしのライブキャスターをいじり出した。

「よし。俺と蒼刃の連絡先を登録しておいた。何か困ったことがあったら連絡してくれ」

じゃあな、と小暮さんは蒼刃さんと共に逃げるように走り去っていった。あたしはその流れについていけず、しばらくの間棒立ちしていた。



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